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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-302

須藤眞一郎行政書士事務所気付

妊娠を理由とするフィリピン人技能実習生への不利益取扱事案に関する訴訟

   佐久間 より子(コムスタカー外国人と共に生きる会)


 2021年に妊娠を理由に解雇・強制帰国させられようとしてコムスタカで保護をしていたフィリピン人技能実習生イッサさん(仮名)が2022年10月に監理団体、実習実施者および送り出し機関を相手に損害賠償請求訴訟を提起し、2023年1月17日に第1回口頭弁論が行われました。

 イッサさんは2019年に来日し、監理団体での研修後、福岡県築上郡上毛町にある特別養護老人ホームで介護の技能実習生として働き始めました。 2021年4月下旬に妊娠していることが判明し、5月上旬に送り出し機関と監理団体に妊娠したことを伝えました。 初めは送り出し機関より、妊娠することは契約違反で、罰金を払いフィリピンに戻らなければならないと言われました。 監理団体からは「妊娠を理由に解雇はしない」と言われますが、出産の意思を伝えると、「あなたのやったことで、みんなに何があるか分からないけど、それでいいですね。そのくらいの強い気持ちを持ってくださいね。」と言われました。 また、監理団体は、同じ監理団体に属し他の施設で働くイッサさんのパートナーにも連絡をとり、「中絶をしないのであれば、イッサさんとあなたに起こりうる全てのことを受け入れるように」と伝えました。 また、妊娠を理由には解雇できないが別の理由をつけて解雇することができることを示唆するメッセージを送ってきました。

 5月11日に監理団体等と話し合いの場が持たれましたが、監理団体より「妊娠の事実は外国人技能実習機構(以下、OTIT)やPOLO(フィリピン海外労働事務所)・POEA(フィリピン海外雇用庁)や、他の実習生には伝えないように」と言われ、妊娠を理由での帰国ではなく、腰痛とホームシックの為の帰国にすることにすると言われました。 その時はイッサさんとパートナーはその場の状況に圧倒されたこともあり、これが決定事項でありその他の選択がないと思い同意してしまいました。 しかし、イッサさんは納得がいかずにOTITに相談しましたが、OTITからは妊娠を理由に解雇するのは違法だと監理団体などに自分で伝えるようにと言われただけでした。

 5月18日の2回目の話し合いの場で、イッサさんは在留期限が切れる9月まで働きたいと訴えますが却下されました。 OTITが発行している妊娠による不利益取り扱いの禁止の通知を監理団体等に見せましたが、妊婦はサービス利用者の高齢者にリスクがあるので、通知は介護の実習生には該当しないと言われました。 また、重労働を避け軽作業へ変更したら、実習のカリキュラムが行えずに技能実習の要件を満たさないと言われました。 イッサさんはせめて7月の日本語能力試験を受けるまで滞在させて欲しいと頼みますが、すぐに帰国しなければならないと言われ、出産後に再来日をして仕事をすればいいと言われました。 しかし、話し合いの後に送り出し機関等からは、同じ施設で働けるか、また実際に戻って来られるかは分からないと言われました。

 5月19日にイッサさんからの相談をコムスタカが受け、翌日からコムスタカからもOTITに連絡を入れ監理団体及び実習実施者がイッサさんの意に沿った対応を行うよう指導するよう要請しました。 しかしOTITからは大した介入は行われないままでした。

 5月27日に再度話し合いの場が持たれ、イッサさんは監理団体の代表より、「あなたはもう実習は終わりです。 実習者があなたの実習を終わらせます。 ですから、あなたはあそこ(職場)にこれ以上いられません。 それで終わりです。これからどこに行きますか?あなたはもう仕事がなくなります。」と言われ、送り出し機関からは、仕事は5月末日で終了で、翌月は仕事がないので、現在の住まいから出なければならないと言われました。 そして翌日28日に実習実施先の指導員より他に選択肢はないと言われ、本人の意思に反して帰国同意書に署名をしてしまいました。 このままでは帰国させられると恐れ、本人及びコムスタカからOTITに身柄の保護を要請しましたが、保護はできないと言われました。 そのため、コムスタカがイッサさんを保護する旨をOTITに伝えその日の夜に保護しました。

 結局イッサさんは6月以降仕事のシフトを入れてもらえず、事実上解雇同然の扱いを受けているにも関わらず、解雇はされずに失踪し欠勤扱いとされていました。 彼女は働くことも、失業手当を申請することもできず無収入となりました。 職場復帰ができるように実習実施者と交渉を行いましたが、是正措置はとられずに、航空会社に妊娠6ヶ月までの搭乗制限があるために、2021年8月末に帰国しました。

 イッサさんは12月に男子を出産後、フィリピンで通訳の仕事をはじめました。 そして実習再開のために画策しましたがなかなか話がまとまらず、翌年7月、実習再開が難しいと判断し、当面の間はフィリピンで子育てしながら働くことにしました。 当初は実習再開後に提訴する予定でしたが、再開を断念したため、2022年10月に監理団体、実習実施者、送り出し機関を被告として、未払い賃金の請求及び損害賠償請求を提訴しました。

 本来であればイッサさんは雇用契約を継続したまま産休を取得し、産休後に実習を再開し技能実習を終了させることができたはずです。 技能実習終了後には特定技能に切り替え、介護福祉士を取得することも視野にいれていました。 しかし、技能実習生にも妊娠出産による不利益を受けない権利があるにも関わらず、彼女の権利は否定され続け、技能実習を諦めざるを得なくなりました。 イッサさんは彼女に起こった問題は彼女だけの問題ではなく、権利を主張していくことで他の技能実習生が同じような扱いを受けずに済むようになるとの思いがあります。 同様な不利益を受けている技能実習生の権利の保障のためにもイッサさんと共にこの裁判を戦っていきたいと思います。

イッサさんのアピール 「なぜ私が提訴したのか」

 2022年10月15日 イッサ

 日本政府は妊娠中の女性を解雇することは違法と定めていますが、この規定は実際には守られていません。 雇用契約書に明確に書かれているにもかかわらず、私たちはまだ(妊娠出産を選択する)権利を奪われています。

 なぜこのようなことが起こるのでしょうか。 妊娠や出産は私たちの権利として認識されておらず、法律が守られていないからです。 妊娠した技能実習生を面倒くさい存在だと思っているのです。

 外国人技能実習制度で最も恩恵を受けているのは誰でしょうか。 技能実習制度の中で交わされる契約書は、結局は私たち実習生を守るためではなく、監理団体や実習実施者などを守るためのものなのでしょうか。

 残念ながら、私は、帰国を迫られ、辞めざるを得なかった多くの無力な実習生の1 人でした。 本当にみじめで、困難の連続でした。

 想像してみてください。お腹にもう一つの命を宿しているときに私が経験した酷い出来事を。 私はこんな扱いをされるべきではないし、私の赤ちゃんも同じです。こんなひどい扱いを許すことはできません。

 自分の妊娠がわかったとき、最初に電話をして助けを求めたのは、送り出し機関のフィリピン人の代表でした。 私の状況を理解してくれるに違いないと思ったからです。 それに、私たちは同じフィリピン語で話すので、理解してもらうことも出来ると信じていました。 しかし実際には、彼女は現在妊娠している別の実習生の話を持ち出し、会社は彼女にも帰国するよう言っていると言い、 さらに私に現在妊娠何ヶ月かを尋ね、8週くらいだと思うと答えると「まだ早いから」と言われました。 私は彼女の言葉に驚いたし、とてもショックでした。

 私は次に、監理団体に電話で相談しました。 すると監理団体から、私の妊娠のせいで他のフィリピン人実習生の評価はすごく落ちると言われました。 そして私に「アボーション」(中絶)を知っているかと尋ねました。私に中絶するよう薦めていると感じました。

 実際、私はたくさんの人に助けを求めようとしました。 送り出し機関、監理団体、実習実施者の三者に対して、ひとりで声をあげ続けるのは本当に困難でした。 私は何度も一人ぼっちで自分の身を守らなければなりませんでした。

 私は彼らに、「赤ちゃんを産みたいです。契約書にも書かれている通り、産休を取って、フィリピンに帰って出産し、日本に戻って実習を終わらせたい」と言い続けました。 それは契約書にも明記してありますし、私の基本的な権利だからです。

 しかし、実際は誰も私の話を聞いてくれませんでした。 彼らによると、私の要求には応じられず、実習をやめて帰国する選択肢しかないと言われました。 彼らは私を翌月のシフトから外しました。シフトに入れてもらえないことで本当に脅された気がしました。本当に絶望的でした。

 私は何度も話をし、仕事を続けさせてくれるよう要求しました。 しかし、話し合いの場で言われたのは、私の実習はすでに終了したので仕事はもうない、住んでいる寮からもできるだけ早く出なければならない、ということでした。

 今回、私の身に起きたことを公表せず、誰もこの問題を提起しなければ、企業や監理団体等は不正を行い続け、多くの技能実習生が私と同じような酷い扱いを受け続けることになります。

 私は正しい要求をしただけなのに、それが認められませんでした。 明らかに不公平な外国人技能実習制度を正し、私の失われた権利や損害を回復するため、このたび裁判を提訴することにしました。


妊娠を理由とする技能実習生(介護)への不利益取扱事案に関する未払い賃金・損害賠償請求訴訟に関する訴状の概要

 2022年10月15日 原告訴訟代理人弁護士 石黒 大貴

第1 請求の概要

 被告施設(実習実施者)に対しては、令和3年7月25日から9月25日の期間までの未払い賃金、被告ら(施設・監理団体・監理団体理事2名)に対しては、 @出産手当相当額、A賃金相当額(技能実習2号満了の時まで)、B技能実習3号への移行の期待権侵害、C慰謝料、D弁護士費用など総額約600万円の支払いを請求しています。

第2 訴状の概要

  • 2019年9月12日に来日(技能実習1号)した26歳(提訴時点)フィリピン国籍の女性
  • 来日後に本訴訟の被告である施設に勤務、2021年4月25日に妊娠を知る
  • 原告は、施設との雇用契約を維持したまま、在留期限と就労制限がかかる直前まで働き、産休を取得した上で、里帰り出産するため帰国し、出産後復帰するとの希望を伝えていた。
  • 送り出し機関代表にでもある監理団体理事に相談したところ、「原告と原告のパートナーは契約違反で罰金を払い、フィリピンに戻らなければならない」などと告げられた(210509)。
  • 別の監理団体理事からは「じゃあバイバイと施設が言うかもしれない」「産休はあるが、フィリピン人の評価はあなたのせいですごく落ちる」「これだけ教えて。(中略)一つだけ聞きたいことある。それは何かというと、アボリッション(中絶の意)っていうのこれ?」と言われる。 原告が断ると「うん、じゃあ、トレーニー同士が、そういうことをしました。あなたのやったことでみんなに何があるかわからないけど、それでイイですね。そのくらいの強い気持ちをやってくださいね」と言われる(210509)。
  • 監理団体代表者及び理事からは、「あなたはもう実習は終わりです。実習者が「あなたはもう実習は終わりです。実習者があなたの実習を終わらせます。ですからあなたはあそこ(施設)にこれ以上いられません。(中略)あなたはもう仕事がなくなります。」と言われた(210527)。
  • 実習実施者の施設からは、「あなたが実習生じゃなくなってしまうとうちの雇用がストップ。」 「あなたが色々調べていた産前産後(休暇)とかも、雇用されている人には適用されるけど、(雇用されていない人には)適用されないでしょ」などと述べ、原告が拒否しているにも関わらず、帰国同意の署名をさせた(210528)。
  • 5月28日にコムスタカが保護。6月以降のシフトは入れられておらず、妊娠している実習生は技能実習計画の関係で働かせることができないなどと告げられる(もっとも、その後施設からは雇用関係は継続しているとの回答があるも業務命令・シフトなし)。同年8月末に退職の意思を示し、帰国。
  • 上記一連の被告らの行為について、@施設側の責任で、6月、7月、8月分の賃金が払われていないことを理由とする未払い賃金請求権 A男女雇用機会均等法、技能実習法(2017年11月施行)、技能実習制度運用要領に違反し、退職の強要を行ったこと、これを放置し続け、原告が退職せざるを得ない状況に追い込まれたとの不法行為を原因として、精神的苦痛のほか、本来得られるはずであった、技能実習2号の期間満了までの残りの賃金、産休手当、3号更新の期待権侵害を理由とする損害賠償請求権の存否について、2022年10月12日に提訴(訴状は同月11日に発送)。

第3 本訴訟の特徴

 全国的に妊娠した実習生への解雇や強制帰国の事案については頻発している現状があるが、妊娠した技能実習生に対する不利益取扱、退職の強要があったとして実際に訴訟にまで至るケースは稀。 また、技能実習法施行後の事案のため、裁判所が本件に技能実習法をどのように適用させるのかについても注目される。

 本件の特徴として、声を荒げるなどの恫喝的な態様ではなく、口調としてはむしろ穏やかではある。 しかし、労働者として主張する原告に対する被告らの対応は、原告に当然に認められる権利を実習生であるという理由で蔑ろにしているものと言わざるを得ない点は訴状で主張している。 また、「フィリピン人の評判が落ちる」、「(中絶をしないなら)みんなに何があるかわからないけどそれでイイですね」といった監理団体理事の言葉は、原告に何らかの不利益が生じかねないような口ぶりであってそれ自体が、違法性を有するなど、各当事者の発言がいわゆるマタニティハラスメントとして違法の評価を受けるかどうかについても今後問題となる。

追記

 イッサさんの賃金・損害賠償請求訴訟は、2022年10月の提訴後、管轄裁判所が福岡地裁行橋支部から同地裁小倉支部に移送となり、裁判官3名の合議事件となり、2023年1月17日に第一回口頭弁論が公開法廷で開かれました。 そして、以後は、受命裁判官2名と原告及び被告らの代理人弁護士により、福岡地裁告小倉支部で、弁論準備手続が3ヶ月1回のペースで続いています。 2024年中には、原告と被告人らの証人調べが行われ、結審−判決となる予定です。


※以上の記事は、コムスタカニューズレター第111号に掲載したものです。


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