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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

〒862-0950 熊本市中央区水前寺3丁目2-14-302

須藤眞一郎行政書士事務所気付

死体遺棄罪で起訴された技能実習生の刑事裁無罪主張の記者会見資料

 2021年11月19日死体遺棄容疑で逮捕され、同年12月10日死体遺棄罪で起訴されたベトナム人技能実習生レー ティ トゥイ リン (以下リンさん)は、同年1月21日に逮捕から2カ月ぶりに保釈され、死体遺棄罪の無罪を訴えて、刑事裁判を闘っています。 2021年4月24日午後2時より熊本市国際交流会館ホールにて、刑事裁判でリンさんの無罪を主張して弁護するリンさんの弁護団と共に、刑事被告人となっているリンさん自身が、自らの言葉で、「なぜ無罪を主張する」のかを説明する記者会見を開きました。

 以下記者会見資料を掲載します。


弁護人主張の要旨

リンさん刑事裁判弁護団
主任弁護人 石 黒  大 貴

1 事案の概要

 技能実習生の立場で妊娠が発覚すれば、母国ベトナムに帰国させられ家族に迷惑がかかることを恐れたリンさんは、一人で妊娠の事実を抱え込み、令和2年11月15日午前中、自宅の自室で双子を出産した。 すぐに死産であることが分かったが、産後直後の疲労と精神的疲弊によって、休息をとったのちに、わが子をそのままにできないとの思いから、目の前にあった段ボールにタオルを敷き、子どもらを箱の中に納めた。 さらに上からタオルをかけ、休憩をとりながら子どもらの名前を考え、名付けた名前と「安らかに眠ってください」とのメッセージを書いた紙を上にのせ、自室にあるリンさんの腰の高さほどの台(キャビネット)の上に置いた。 本件は、出産当日である令和2年11月15日中のリンさんの上記行動が、「葬祭義務」に違反した死体の「放置」であるとして、死体遺棄罪であるとして起訴された事案。

2 死体遺棄罪とは

 死体遺棄罪(刑法190条)は、死者に対する社会的風俗としての宗教的感情を保護法益としている。 裁判例上、「宗教風俗上、死体の処置に関し、道義上首肯しえないような方法で埋葬、冷遇放置、隠匿する場合」には死体遺棄罪が成立するとされている。 また、葬祭義務を有する者が、これに違反して、死体を放置しその場から離去する場合に、「放置」という不作為(何もしないこと)を理由に死体遺棄罪の成立を認めている。 なお、この「葬祭義務」というのは、法令上の規定はなく、慣習上の義務とされている。

3 墓埋法との関係

 墓地埋葬等に関する法律(通称「墓埋法」)3条本文において、「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない」と規定されている。 リンさんは何もしなかった「放置」を理由に起訴されているが、死産当日の15日中に葬祭義務の履行を要求することは、死後24時間以内の埋葬・火葬を禁止する法律の規定と明らかに矛盾する。

4 弁護人の主張

 弁護人は、前項3の墓埋法上の規定から、15日当日のリンさんに葬祭義務を要求することはできないことを主張しつつ、そもそもリンさんが行った行為は遺体の冷遇放置ではなく、埋葬のため安置であることを主張している。
 すなわち、リンさんのとった行為は、死産直後の肉体的・精神的に疲弊しきった状態で、限られた身の回りの物で棺を作り、我が子の遺体を入棺した行為であって、これを葬祭義務に違反した放置とは評価できない。 なお、死産した嬰児の遺体を紙箱に入れている産婦人科も存在する。
 また、リンさんは、自らの体調が回復したのちに子どもらを埋葬する意思を有していたが、言語も文化も異なる日本において、死産した場合の埋葬手続もわからなかった状態であった。
 そして、長時間のお産に伴う苦痛に一人で苦しみながら産み落とした子どもが死産であった状態下において、リンさんにどこまでの行動を期待できたのかという点(期待可能性)が大きく問題になる。
 葬祭義務が具体的に何を意味するのかは明らかにされておらず、リンさん自身が体力的・精神的に限界の中で、彼女がとった精一杯の行動は、刑罰を以って処罰されなければならいのかは極めて疑問である。
 本件で死体遺棄罪が成立してしまえば、妊娠の事実が発覚すれば帰国させられる恐怖に怯える技能実習生は当然のこと孤立出産を余儀なくされ、死産した母親たちが、出産当日に何もしなかったことを理由に、死体遺棄罪で逮捕される例が増えることに大変な危機感をいただいている。
 弁護団としては、何としてもリンさんの無罪を勝ち取る決意である。

以 上

記者(きしゃ)会見(かいけん)で、述べたいこと

 私(わたし)はベトナム人の レー ティ トゥイ リンといいます。マスコミの皆(みな)さんの前(まえ)で 話(はなし)をすることには、とても怖(こわ)くて悩(なや)みましたが。
 昨年(さくねん)11月(がつ)、私が警察(けいさつ)に逮捕(たいほ)されてから、多(おお)くの方々に支援(しえん)していただきました。 おかげさまでマスコミの前(まえ)で話(はな)す勇気(ゆうき)が出ました。 皆様(みなさま)には、ほんとうにお世話(せわ)になり、心(こころ)から感謝(かんしゃ)しています。

  私(わたし)は2018年(ねん)8月(がつ)、日本(にほん)に技能(ぎのう)実習生(じっしゅうせい)として働(はたら)きに来(き)ました。 日本(にほん)に来るために150万円(まんえん)もの費用(ひよう)を工面(くめん)したので、ベトナムの家族(かぞく)のため、農家(のうか)で一生懸命(いっしょうけんめい)働(はたら)きました。 2020年(ねん)5月(がつ)ぐらい妊娠(にんしん)していることが分(わ)かりました。 しかし、妊娠(にんしん)した実習生(じっしゅうせい)が帰国(きこく)させられたことも聞(き)いていましたので、ベトナムに帰(かえ)らされることが怖(こわ)くて、組合(くみあい)や社長(しゃちょう)さんに言(い)うこともできず、だれにも相談(そうだん)することができませんでした。

  お腹(なか)の赤(あか)ちゃんが動(うご)いているのを感(かん)じながら、苦(くる)しかったのですが、2020年(ねん)11月(がつ)14日(にち)午前中(ごぜんちゅう)まで働(はたら)きました。 その日(ひ)の夜(よる)お腹(なか)がとても痛(いた)くて、胎児(たいじ)が動(うご)かなくなりました。 一晩(ひとばん)中(じゅう)苦(くる)しみながら、一人(ひとり)で、15日(にち)の午前中(ごぜんちゅう)、部屋(へや)で双子(ふたご)の赤(あか)ちゃんを死産(しざん)しました。 双子(ふたご)は全然(ぜんぜん)泣(な)かないし、呼吸(こきゅう)もしないし、触(さわ)っても反応(はんのう)しませんでした。 そのとき、体調(たいちょう)が悪(わる)くて、心細(こころぼそ)くて、怖(こわ)くて、自分(じぶん)の子どもの遺体(いたい)を見(み)て心(こころ)がとても痛(いた)みました。 母(はは)として丁寧(ていねい)にダンボールに白(しろ)いタオルを敷(し)いた上(うえ)に2(ふた)人(り)の遺体(いたい)を入(い)れ、青(あお)いタオルをかけました。 またベトナム語(ご)で双子(ふたご)の名前(なまえ)を付(つ)け、「安(やす)らかに眠(ねむ)ってください」という弔(とむら)いの言葉(ことば)をかいた手紙(てがみ)をダンボールに入(い)れ、自分(じぶん)の部屋(へや)の棚(たな)の上(うえ)におきました。 もちろん、自分(じぶん)の子どもを捨(す)てることは考(かんが)えませんでした。 検察官(けんさつかん)は、この日(ひ)の私(わたし)の行動(こうどう)について起訴(きそ)していますが、その日(ひ)は体(からだ)がきつくて、怖(こわ)くてどうしたらいいのかわかりませんでした。

 それが無罪(むざい)を主張(しゅちょう)する理由(りゆう)です。

 今(いま)、私(わたし)が一番(いちばん)望(のぞ)んでいることは、芦北(あしきた)警察(けいさつ)署(しょ)に保管(ほかん)されている私(わたし)の子(こ)どもの遺体(いたい)を1(いち)日(にち)も早(はや)く引(ひ)き取(と)り、火葬(かそう)して、弔(とむら)いたいということです。

 最後(さいご)に、マスコミの皆(みな)さんにお願(ねが)いがあります。 新(あたら)しい実習先(じっしゅうさき)や個別(こべつ)に私(わたし)への取材(しゅざい)はしないでくださるようにお願(ねが)いします。 今(いま)の新(あたら)しい実習先(じっしゅうさき)に影響(えいきょう)が及(およ)びます。 そして私(わたし)も皆(みな)さんの助(たす)けを頂(いただ)きながら、安心(あんしん)して働(はたら)きたいと思(おも)っています。 心(こころ)からお願(ねが)いします。

  どうもありがとうございました。

  2021年4月24日

         レー ティ トゥイ リン

 

妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いの禁止についての通知

妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて(注意喚起)(平成31年3月11日)     

妊娠等を理由とする技能実習生の不利益取扱いの禁止の徹底及び妊娠等した技能実習生への対応について(注意喚起とお願い)(令和3年2月16日)



リンさん無罪のための第二次寄付金のお願い

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