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コムスタカ―外国人と共に生きる会 Kumustaka-Association for Living Togehte with Migrants

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須藤眞一郎行政書士事務所気付

アメリカのDV対策―DV加害者介入政策―

2016年12月20日  佐久間 より子(コムスタカー外国人と共に生きる会事務局)

※以下の文章は、2016年12月20日発行のコムスタカ第93号に掲載したものに著者が、加筆修正したものです。

 

はじめに

 現在の日本のDV政策は、被害者の一時的な保護と、それまで生活していた場所を離れた後の自立支援が主で、加害者への介入はほとんど行われていません。 これでは、野放し状態になっている加害者が新たな被害を生んでいくだけで、問題解決にはならないと思います。 また、日本で加害者介入と言うと、加害者更生プログラムとして理解されがちだと思います。 アメリカでも加害者介入プログラムは、もちろん存在して大きな役割を果たしていますが、加害者介入=加害者プログラムではなく、加害者プログラムは加害者介入施策の一部でしかありません。 DV加害者介入施策とは、加害者に自分の取った行動の責任を取らせ、再発を防ぐことで被害者を保護していくための総合的な対策です。 その主な内容として、
1)加害者に対する保護命令の発令
2)DVや保護命令違反を犯罪として逮捕・起訴を積極的に行っていくこと
3)加害者介入プログラム
4)CCR(地域連携対応)が挙げられます。
加害者介入は、DV加害者への相談対応や更生支援ではなく、またその真の対象者は加害者ではなく被害者です。加害者の暴力を抑止し被害者を守る、新たな被害を生まなくするいことが加害者介入の目的です。 ここで、アメリカのDV加害者対策の歴史的な変遷と、連邦レベル、州レベル(主にカリフォルニア州)の取り組み、「連携されたコミュニティ対応」CCRについて説明したいと思います。


連邦政府の取り組み

  アメリカでは各州がそれぞれDVに関する法律を制定し、州内の自治体をDV事件の管轄として、様々な制度を作って対応しています。 しかし、アメリカ国内で起こる多くの暴力行為が配偶者や恋人間で行われていることもあり、アメリカ連邦政府は、DVを国家的問題と位置づけ、国を挙げてその対策に取り組んでいます。 DVに関する一番重要なアメリカ連邦法が、女性に対する暴力法(Violence Against Women Act、以下VAWA)です。 1994年のVAWA制定まで、DVに関しては各州に任せっきりで、連邦政府としては大した取り組みを行っていませんでした。 このVAWAによって、DVは犯罪であると明確にされ、連邦政府がDVに対して取り組むことが可能になりました。 まず、VAWA制定までに、アメリカでDVがどの様に扱われていたのかを見ていきたいと思います。


アメリカでのDVの歴史的変遷

 アメリカは、植民地時代よりイギリスの慣習法の影響を色濃く受けています。 慣習法では、夫婦は法的には一つの人格と見なされており、夫は妻の行動に責任があるとの理由で、妻の「行動を正す」ために夫が妻を殴ることは、夫の権利として法的に認められていました。 有名なのが「親指の法則」で、夫は自分の親指よりも細い棒でなら妻を殴っても良いという法則です。 また、「犯罪とは社会生活の秩序を侵害する行為であって、私的な空間である家庭には法は立ち入らない」という慣習法の解釈があり、私的な空間で起こる妻虐待に法は関与しないという考えが長い間ありました。 1824年のミシシッピ州のブラッドレイ事件でミシシッピ州最高裁判所は「夫は非常時においては妻に適度な折檻(せっかん)・懲罰を与えることができる」とするなど、妻への暴力を容認する考えは、そのままアメリカへ引き継がれてしまいます。

 しかし、1800年代後半に少しずつ変化が起こりはじめます。 1871年にアラバマ州のファンガム事件で初めて夫の妻に対する懲罰権が否定されます。 1874年のノースカロライナ州オリバー事件でも同様に夫の妻への懲罰権を否定しながらも、「夫の暴力によって一生の傷跡が残るのではなければ、家のカーテンを閉め、世間の目から遠ざけて、後は両者間で許しあうべき」としています。 1882年には、 メリーランド州で初めて妻虐待が刑罰(40回のむち打ち、または1年間の拘禁刑)付きの犯罪として違法となります。 デラウェア州やオレゴン州でも懲罰付きの犯罪となったのですが、これらの法律は、ほとんど執行されなかったと言われています。

 1920年までに全ての州で妻虐待は違法(主に脅迫軽罪・misdemeanor assault)となりました。 しかし、妻に対する暴力容認や「法は家庭に入らず」の考えは根強く、1970年代に入るまでは、DVは「犯罪」ではなく、単なる「家庭内の紛争」として考えられていました。 そして、DV事案は刑事裁判制度ではなく、民事である家庭裁判制度へ送られ、調停と社会福祉介入によって解決するものとされていました。 また加害者逮捕はよほど深刻な暴力行為があった時のみとされ、警察官は、加害者逮捕ではなく、当事者間の仲裁を行い、必要に応じて社会福祉サービスへ繋ぐという「家族危機介入」を原則としていました。

 1970年代に入ると、警察や司法機関の消極的な対応は、被害者や支援者達から批判されるようになります。 女性解放運動が盛んになり、活動家達は「家庭内の問題は、政治的な問題である」と主張し、司法機関・警察機関に対してDV事案の取り扱いを変えるように働きかけました。 そして、DV加害者逮捕などの適切な行為を行わずに被害者を保護しなかったことを理由に、警察官等を相手にクラスアクション〈集団訴訟〉(カリフォルニアのハート事件・ニューヨークのブルーノ事件等)や損害賠償訴訟(コネチカット州のサーマン事件・ニューヨーク州のソリチェッティ事件)を起こしていきます。

 1980年代には、連邦政府も動き出し大規模な調査を始めます。 1981年から1982年に国立司法研究所の助成によりミネアポリスで行われた調査で、警察がDV軽罪事件に駆け付けた際の対処法として、仲裁や一時的な引き離しよりも、加害者逮捕がDV再犯防止に一番効果があるという結果が出ました。 (再犯率の結果:警察記録より逮捕10%、仲裁19%、引き離し24%・被害者証言より逮捕19%、仲裁37%、引き離し33%)この調査結果はメディアでも広く取り上げられ、大きな反響を呼びます。 また、この調査結果を受け、1984年に司法長官がDVに関する特別委員会報告書において、DVを犯罪行為として扱い、逮捕を促進すべきという特別勧告を行っています。 これらの影響もあり、警察機関や司法機関がDV加害者に対する逮捕や起訴を強化していきます。 そして、1994年に連邦議会の犯罪法案によってVAWAが制定され、2000年,2005年、2013年と改正を繰り返しながら保護の範囲を拡大していっています。


Violence Against Women Act 女性に対する暴力法

 1994年に制定されたVAWAにより、DVは犯罪と定義され、連邦政府がDVに対して取り組むことが可能になりました。VAWAの主な目的は、1)DV犯罪の捜査や起訴を強化するために警察や司法機関の対応を改善し、2)様々な行政機関・民間機関への補助金を通して多方面からDV・性犯罪・デートDV・ストーカー問題に取り組むことです。

 VAWAは、各州や部族地域などが発令している保護命令は、州を跨いでもその効力を発揮すると定め、また、DV事案は基本的に各州や自治体の管轄となるのですが、州を越えたDV行為等や保護命令違反を連邦罪として、司法省が連邦裁判所にて起訴できるとしています。 更にVAWAは、それぞれの州のDV犯罪の逮捕制度を強化することを目的とし、義務的・積極的逮捕制度を定めることを各州が連邦政府の補助金を受け取る条件として、逮捕優先政策を推進しています。 DV犯罪の予防、被害者支援、DV調査や研修等、DVに関する幅広い取り組みを地域が連携して行うように、VAWAは州政府や地方自治体、非営利団体、大学機関などへ資金提供を行っています。 また、移民国籍法がVAWAにより改正され、婚姻に基づいて永住権を申請する外国人が,配偶者であるアメリカ市民や永住者からDV被害を受けている場合,アメリカ市民などの配偶者を申立人とする手続に代わり、外国人の被害者本人が永住権を申請することができるようになりました。 2013年の改正では、DV被害者が人種や宗教、国籍、性別、性自認、性的指向、障害の有無などにより差別的な扱いを受けたり、支援を受けられないことがないように定めています。

 保護命令がでているDV加害者、DVの有罪判決を受けた人の銃の保持・購入・使用を禁じている銃規制法や、170言語で対応する全国DVホットライン等のDV予防と被害者支援の連邦補助金源である家族暴力予防とサービス法、不法移民改正及び移民責任法など、VAWA以外にもDVに関する連邦法があります。州を跨いだDV等には連邦政府が直接的な介入をしますが、基本的には連邦政府は各州のDV政策に一定のガイドラインを促したり、州政府や自治体などへ資金提供を行うなど、間接的な介入を行っています。


州レベルでの取り組み

 各州のDV法は実に様々な違いがあり、また同じ州内の自治体によってもそのDV政策には様々な違いがあります。 しかし、全ての州でDVは犯罪として定義され、刑事処罰の対象となります。カリフォルニア州では主に人身傷害罪とDV暴行罪の2つのDV罪があり、家族以外の見知らぬ人への犯行に対しての刑罰よりも重くなります。 また、ほとんどの州では、1)逮捕優先政策、2)保護命令、3)CCRが加害者介入の柱になっています。


逮捕優先政策

  逮捕優先政策とは、令状無しの逮捕と義務的・積極的逮捕のことを意味しています。 アメリカでは犯罪は主に重罪felonyと軽罪misdemeanorに分けられますが、基本的に軽罪の場合は、現行犯の場合のみに令状無しで逮捕する権限が警察官に与えられています。 しかし、DV犯罪の場合は、重罪か軽罪かに関わらず、また警察官の目前で行われたか否かに関わらず、犯行が行われたと疑われる場合は、警察官は逮捕令状なしで加害者と疑われる人物を逮捕することができます。

 義務的・積極的逮捕とは、DV行為があったと信じるに足る相当な理由があり、逮捕の要件が揃っている場合には、警察官は加害者を逮捕しなければならないというものです。 義務的・積極的逮捕制度には、義務的逮捕(mandatory arrest)、優先逮捕(preferred arrest)、裁量逮捕(discretionary arrest)の3つがあります。 多くの州は、DV加害者または加害者と被害者両方をその場で逮捕状なしでも逮捕するか、逮捕しなかった場合はその理由を報告書で提出する優先逮捕制度を定めています。 ニューヨーク、ウィスコンシン、ミネソタ州などでは、DV事件で警察が呼ばれた場合は、必ず逮捕をするという義務的逮捕制度を設け、警察が現場を逮捕無しに立ち去らないようにしています。 州によって義務的逮捕の要件が、裁量逮捕法の州でも、暴力の程度や時期、関係性などの裁量のガイドラインがそれぞれ違います。

 カリフォルニア州は、優先逮捕制度を採用しており、警察は、DV加害者が傷害罪を含む重罪やDV暴行罪を犯した場合や犯したと疑われる場合は、令状なしでも逮捕することとしています。 また、警察が傷害罪や暴行罪で逮捕しない場合も、被害者に対して市民逮捕(citizen’s arrest)をする権利があることを伝えることとなっています。 このようにアメリカでは、DVは犯罪として、積極的にその加害者の逮捕を行い、事件化をし、刑罰を以ってDVを抑止することを行っています。


保護命令制度

 DVが逮捕や有罪にならなかった場合でも、法的措置として保護命令制度が設けられています。 保護命令とは、裁判所が、被害者の申請を受け、加害者に対して一定の作為・不作為を命じるもので、例として、暴力行為の禁止、嫌がらせ・迷惑行為の禁止、接近禁止、連絡禁止、立ち退きや、日本と大きな違いとして、生活費・養育費の支払いや加害者プログラムの受講を命じることもあります。 カリフォルニア州の保護命令には、四つの種類があります。 緊急保護命令(効力7日以下)は、被害者ではなく警察官によって電話で裁判所に申請され、即時に効力を発揮します。 審問が行われるまでの一時的保護命令(効力20日から25日)と審問終了後に発令される一般保護命令(効力3年から5年)は民事的介入ですが、刑事保護命令(効力10年以下)は、DV有罪判決を受けた人に出される刑事的処分です。

 保護命令が実効性のある制度である為には、保護命令違反は即時に取締まれなければならないとして、カリフォルニアを含む30州では、保護命令違反は、令状なしの逮捕が許可され、義務的逮捕が命じられています。 多くの州では、DV有罪判決(軽罪)を受けた者はすぐには懲役が科せられずに、保護観察となります。 DV罪の保護観察は、加害者の多くが常習性があり、長期にわたりDVを繰り返すことより、他の保護観察よりも期間が長くなっています。 カリフォルニア州では、DVで有罪だった場合は、軽くても最低3年間の保護観察と最長10年間の保護命令が発令されます。

 保護観察の条件として、加害者介入プログラムの受講や薬物テスト、DVプログラムやシェルターへの支払い、被害者への損害賠償、コミュニティサービス、必要に応じて薬物依存やメンタルヘルスの治療等が裁判所命令として出されることとなります。 また、仮釈放の場合も同じように加害者プログラムの受講などが条件となります。

 カリフォルニア州を含む多くの州では加害者介入プログラムは認定制になっています。 認定されているプログラムと認定されていないプログラムの大きな違いは、CCRという制度に組み込まれているかどうかというところにあります。


CCR「連携されたコミュニティ対応」

  CCRとはCoordinated Community Responseのことで、直訳すると「連携されたコミュニティ対応」となります。 アメリカのDV介入で重要なコンセプトが、このCCRです。 CCRは、あらゆる行政・民間機関が連携を取り、その地域に存在する社会資源を最大限に活用しながら、コミュニティ全体でDV問題に取り組んでいくというものです。 コミュニティネットワークの一つ一つの支援や介入が、DVをなくしていく働きの一部であり、単体でそれぞれの介入を行うよりも、一貫した途切れのない介入を行うことが、DVをなくしていく効果があるという考えに基づいています。

 CCRの形、どの機関が参加し、誰がコーディネートをするかなどは、自治体により様々ですが、主に刑事司法機関と被害者支援機関が主となり協力体制を組んで、1)警察がDV事件に対して優先的に対応すること、2)義務的逮捕などの積極的な加害者の逮捕と起訴、3)被害者の擁護と支援、4)加害者の危険性や置かれている状況の把握、5)加害者プログラムの参加義務、6)保護観察中の積極的な監視、7)再犯時の保護観察処分の速やかな停止、また8)保護命令申請の簡素化や、9)保護命令での加害者プログラムの参加命令などで民事的介入を強化させることなどが含まれます。

 加害者プログラムの効果については、アメリカでも広く議論されています。

 加害者介入の効果は、先ほどのミネアポリスの加害者逮捕の調査のように、再犯率をもってよくみられます。 Aldorandoが加害者プログラム完遂者と脱落者の再犯率を警察記録から調べた7つの調査(完遂者の再犯率0〜18%、脱落者10〜40%)と、被害者の証言から調べた6つの調査(完遂者の再犯率26%〜41%、脱落者40%〜62%)を比較したところ、再犯率は調査により差があるものの、平均的に完遂者の方が脱落者に比べて再犯率が低いことを示しています。 よって、加害者プログラムを完遂することは暴力抑止に幾分かの効果があると考えられるのですが、脱退率が25%〜65%という調査結果も出ています。 そこで加害者プログラムを脱退させない為に必要なことがCCRと言われています。

 シアトルで行われた調査で加害者プログラムの脱退率が40%という結果が出ました。 この脱退率の高さの要因として、加害者プログラムを途中で止めたり、裁判所命令を無視してプログラムに登録しなかった人に対して、司法機関が大した介入を行っていないこと、また、加害者プログラムと司法機関の連携体制、CCRが組まれていないことが指摘されています。 カリフォルニア州の加害者プログラムの認定制度のガイドラインには、加害者プログラムはCCRの一部でしかなく、単体では存在するものではないと明記してあります。 また、いくら質の高い加害者プログラムでも、CCR、介入の連携体制がしっかりと組まれていなければ、加害者介入の意味を成さないとしてあります。

 CCRでは、主に刑事司法機関や被害者支援機関が主となり連携体制を組んでいるのですが、最近CCRの中でも特に強調されているのが、司法制度以外の支援機関との連携と加害者の危険性や置かれている状況を把握し、それぞれのニーズに合わせた介入を行っていくことの重要さです。

 加害者プログラム完遂者に関する調査によると、プログラム完遂者の特徴として、在職者、既婚者、子どもがいる、教育を受けている、暴力を犯したと認めている人が多いこと、また犯罪歴や薬物使用が少ないことがありました。 2009年に行われたカリフォルニア州での調査では、加害者プログラム終了後の再逮捕に関しては、それぞれの加害者プログラムの制度の特性ではなく、加害者の学歴や年齢、犯罪歴、薬物依存の有無などの加害者の特性が一番の予知因子となっているとしています。 結局、プログラムの脱退や再犯を見た時に、その加害者の経済的社会的文化的要因が大きく、失うものがあまりない人に対してよりも失うものが大きい人にとっての方が加害者プログラムの効果は大きいのではと言われています。 よって、失う物があまりないような加害者の生活環境を整えなければ、結局は暴力をなくしていくことは難しいのではないかと言われています。

 CCRは、主に警察司法機関や被害者支援機関が連携しているのですが、最近CCRの中でも重要視されているのが、司法制度以外の支援機関との連携、リスクとニーズのアセスメント、ケースマネージメントの重要さです。 現在のCCRは、警察局や保安官事務所、地区検察局保護観察局等の司法制度と加害者プログラム、被害者支援機関との連携だけではなく、生活保護局、住宅局、保健福祉局、児童虐待予防委員会や育児支援、法律支援、ホームレス支援、移民支援、LGBT支援、障害者支援、青少年支援等、幅広い支援機関が関わっています。 そして、加害者の置かれた状況を見極めた上で、薬物治療や職業訓練、雇用支援など、それぞれのニーズに合せた多方面にわたる支援も行っていくべきとされ、中でもアルコールや薬物依存の治療、またメンタルヘルスの治療はDVの再発を防ぐには欠かせないとしています。


モデルケースでのDV介入施策の事例

 具体的な介入をモデルケースを用いて見ていきたいと思います。 カリフォルニア州サクラメント市に住む外国籍のAさんは、内縁の夫から殴る蹴る等のひどい暴力を受けて医療機関を受診します。 内縁の夫との間に子ども二人(乳幼児・小学生)がいます。夫は薬物依存があり、仕事もせずに、Aさんが受給する生活保護で生活しています。

 まず、加害者についてですが、医療機関はDV被害者と疑われる患者を治療した場合は、警察への通報義務があるので、Aさんが医療機関を受診したことで通報をします。 警察署内のDV班が駆けつけ、警察はAさんがDVの存在を否定しようが、この夫を逮捕します。 サクラメントでは、DV罪で逮捕された人は、起訴され刑が確定するまでに拘置所でDV教育を受けます。 加害者の有罪が確定し、三年間の保護観察処分となったとします。 保護観察の条件として、加害者プログラムの参加、薬物テストの実施、刑事保護命令は裁判所命令として必ず出され、この加害者の場合は薬物依存があるので薬物依存治療やメンタルヘルスの治療も裁判所命令として出されます。 保護観察官が加害者の危険性やニーズ等の把握を行い、それぞれの必要性に応じたケースマネージメントを行います。 加害者プログラムの参加状況や薬物治療状況等は保護観察官に報告されます。 保護観察違反また保護命令違反は逮捕、裁判所に報告され、刑務所に入れられるか、より制約の多い形で保護観察期間が延長されます。

 次に被害者ですが、被害者は医療機関を受診した際に、医療提供者によりDVの事案として警察に連絡することを告げられます。 警察申請により緊急保護命令が発令され、一般保護命令の手続きや被害者支援団体などの情報提供を受けます。 このケースは子ども二人を含んでいるので、児童保護局へも通報され調査を受けます。 検察局内のDV班でDV被害擁護者(victim advocate)が割り当てられ、擁護者によって裁判の進捗状況の報告や保護命令申請のサポートなどが行われます。 被害者は定期的に加害者の保護観察官や加害者プログラムからの連絡を受け、加害者の状況報告を受けたり、加害者から被害者への接触があった場合などは、すぐに訴えることができます。 被害者支援団体では、被害者それぞれの置かれた状況を把握して、生活保護や医療補助、育児支援、就労支援、住宅支援、法的支援などその被害者のニーズに合せて、生活自立に向けた総合的な支援が行われます。


子どもが関与するDV事案

 子どもが関与するDVについて少し紹介します。 このケースのようにDVに子どもが関与していた場合には、児童保護局(CPS)に通報されます。 加害者逮捕に至らなくても、CPSが子どもへの危険性があると判断した場合は、子どもを裁判所の保護下に置き、加害者・被害者の親から分離させます。 その間に、両親共に加害者プログラムやカウンセリング等を受け、子どもを安全に育てる環境を整えなければなりません。 面前DVの場合は、被害者の親に対しても子どもの保護を怠ったと考えられ、被害者の親にも指導・介入が行われます。 また、現時点では危険性がないと判断されても、将来的に子どもの安全が脅かされる危険性があると判断された場合には、裁判所の命令により子どもを親の保護下に置いたまま同じようなサービスを受けたり、CPSが裁判所への申請をする代わりに同様のサービスを受けさせるという半強制的な介入の仕方もあります。 このモデルケースの場合は、CPSが被害者の母親の加害者との離別の意思を確認した上で、子どもを母親の保護下に置いて保護観察官や被害者支援団体、裁判所などと連携しながら、子どもが安全に育っていける環境を整えます。 しかし、CPSはあくまでも子どもの安全が第一なので、時として被害者の意思に反する介入も行われます。 このように子どもが関与しているDVケースの場合は、加害者逮捕に至らなかった場合でも、児童保護局の介入を通じ、加害者や被害者への介入を行っていくことができます。

 最後に統計なのですが、DV被害者は1994年の1,000人に9.8人から2012年の1,000人に3.2人と69%減少しています。 この減少は、全ての暴力事件の減少67%と同様です。

 DVによる殺人も、1976年の2,892人(全体18,780人)から、2005年の1,510人(16,692人)と減少していっています。

 繰り返しになりますが、アメリカのDV加害者介入対策とは、関係機関が連携し、DV加害者に対して責任を追及して、被害者・加害者両方のニーズに合わせた多方面からの介入を行い、再犯を防いで、被害者を守っていく総合的施策です。 加害者介入プログラムはその中のほんの一部でしかありません。 アメリカでももちろんDV加害者介入について、義務的逮捕が暴力抑止に効果があるのか、介入プログラムに効果があるのか等、様々な議論が行われていますが、どの様な介入の仕方がより加害者に責任を追及し、再犯を防止し、被害者を守っていけるのかと言う議論であり、日本と違って加害者介入を前提とした議論です。 日本とアメリカの法制度や社会の違いを考えると、アメリカの加害者介入対策をそのまま日本、この熊本でとはなりませんが、しかし、日本でも加害者がこれ以上の加害を起こさないために、加害者への責任追及と、各機関が連携して介入していく総合的施策が必要であるし、可能であると思います。

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