コムスタカ―外国人と共に生きる会

多文化社会

「多文化社会の到来と地域社会の対応」


韓国の忠清南道天安市で開催された「多文化社会の到来と地域社会の対応」をテーマとする国際セミナー報告
中島真一郎
2007年7月31日

1、はじめに

 2007年7月24日午前10時30分から16時30分まで、韓国の忠清南道 天安市 ペクソク大学(キリスト教系の私立大学)国際会議室にて、「多文化社会の到来と地域社会の対応」をテーマとする国際セミナーが、忠清南道女性政策開発院と忠清南道女性フォーラムの主催で開催されました。
 当日は前日の夜からの雨模様の天気でしたが、地域の女性団体の人々や忠南広域行政体の女性政策関係者、大学の研究者、NGO関係者など午前中約200名(午後は150名)が参加しました。
 

2、 国際セミナー開催に至る韓国社会の背景

 民族の統一を悲願として、「単一民族」意識が強烈に存在する韓国で、「多文化社会の到来と地域社会の対応」をテーマとする国際セミナーを、なぜ行政が積極的に主導して行われるようになったのか、その背景をさぐると、移住外国人や「結婚移民」とよばれる外国人女性の移住が急増している事情があります。
 ※(1)、(2)のデータ等の出典は、「韓国の文化社会の現況と地域社会の課題」のテーマで報告されたキム・ヨンジュ (忠南女性政策開発院 研究委員)の発表資料からです。
 

(1)急速に増加している国際結婚

 韓国の外国人登録者は、1990年約5万人(全人口に占める比率0.11%)、1995年の約23万人(全人口に占める比率0.6%)、2000年の約49万人から、2006年には91万人(全人口に占める比率1.9%)に増加しています。また、外国人登録者 91万人の73%に相当する約66万人が長期定住者です。
国際結婚も2000年の15234組(全結婚数に占める比率 4.6%)から、2006年39620組(全結婚数に占める比率 11.9%)へと増加しています。

2006年のデータでは、韓国人男性と外国人女性の国際結婚は30208組(全結婚数に占める比率 9.1%)、 韓国人女性と外国人男性の国際結婚は9482組(全結婚数に占める比率 2.9%)と、その比率は、3:1と前者が多くなっています。さらに、第一次産業従事者の婚姻数に占める国際結婚の比率は、全国平均で41%にも達しています。
国際結婚での外国人妻の国籍別分類では、@ 中国(朝鮮族を含む)14608組 A ベトナム 10131組 B  日本 1484組 C フイリピン 1157組 D モンゴル 594組 の順です。一方、国際結婚での外国人夫の国籍別分類では、@ 日本 3756組 A 中国(朝鮮族を含む) 2597組 B アメリカ 1455組 C カナダ 308 組 D パキスタン 152 組の順です。
最近6年間(2001年―2006年)で急増しているのが、韓国人男性とベトナム人女性の国際結婚で、2001年 134組、2002年 476組 2003年 1403組 2004年 2462組  2005年 5822組 2006年 10131 組となっています。その他、韓国人男性とカンボジア女性、あるいはウズベキスタン女性との婚姻も増加傾向にあります。
韓国人男性と外国人女性の婚姻と韓国人女性と外国人男性の婚姻の比率は、外国人配偶者が朝鮮族の中国人、中国人、日本人の場合は、余り大きな差はみられませんが、ベトナム人、フィリピン人、タイ人、モンゴル人、ロシア人、ウズベキスタン人の場合には、大きな格差があります。最新の2006年12月末のデータで、韓国人夫とベトナム人妻の国際結婚は、14768組あるのに対して、韓国人妻とベトナム人夫の国際結婚は63組しかありません。その比率は、99.6%:0.4%となっています。
 

(2)「管理と排除」から、「多文化共生」へ向けて転換する韓国政府の外国人政策

 韓国政府は、日本と同様な「管理と排除」を中心とする入国管理制度を採用し、日本の入国管理及び難民認定法や入管政策を参考に、その後追いをするかのように1990年代は、1992年難民条約の批准、1993年産業研修制度の導入、1997年 父母両系主義への国籍法の改正等をおこなって来ました。(日本は、1981年難民条約を批准し、1981年に留学の派生として研修を在留資格4-1-6の2として導入し、1991年に「研修」、1993年『技能実習生』の在留資格を創設し、1985年に父系主義から父母両系主義への国籍法の改正を行っています。)
 2000年代に入り、移住外国人の増加、その居住の長期化や定住化が進行するとともに、NGOなどの市民団体や労働組合の批判や運動により、産業研修生や居住外国人への人権侵害が社会問題化してきました。
 韓国政府は、入管法を改正し、2002年「永住者」の在留資格制度を創設しました。2003年には、未登録外国人のアムネステイ(合法化)を一定の条件付で実施しました。2004年には、批判の強かった産業研修生制度を廃止し、外国人労働者に労働三権を保障する外国人労働許可制を導入しました。
2005年には、「永住者」の在留資格を持つ外国籍住民への地方選挙権を付与します。
2006年には 法務省に、外国人人権改善協議会が創設され、また、内務省家庭部による『外国籍住民支援業務便覧(支援ガイドブック)』が発行され、各地方自治体に配布されました。
このなかには、「居住外国人支援条例標準案」が含まれていました。
そして、2007年5月には、『居住外国人処遇改善基本法』が制定されました。この法律は、中央政府や地方政府に5年毎に、外国人政策施行計画を樹立する。A 居住外国人及び子女に対する不合理な差別の防止と社会的適応の支援などの内容が含まれていました。これ以外には、2007年5月には、国会に『多文化家族支援法』が発議されています。
中央政府のこれらの法律や政策をうけて、韓国の広域自治体(日本の都道府県や、政令指定都市にあたり 全国に16ある)や、基礎自治体(日本の市町村自治体にあたる)では、2006年度から『居住外国人支援条例』を制定したり、『国際家族の支援センター』を設置したり、準備している自治体が増加している。
 

3、 セミナーの進行と、報告者(敬称略)

開会行事、主催者挨拶、基調報告(キム キュンソク)

第一部 「多文化社会の現況と地域社会の課題」

  発表1 日本の多文化社会の現況と地域社会の課題
       吉富 志津代 (多文化 プロキューブ グループ統轄)

  発表2 オーストラリアの多文化社会の現況と地域社会の課題
       ジョン ラヴリック (オーストラリア地方政府統轄行政官)

  発表3 韓国の文化社会の現況と地域社会の課題
       キム・ヨンジュ (忠南女性政策開発院 研究委員)

  総合討論
       つじもととしこ (新しい社会を開く研究院  主任研究員)
       イ・ジヒ (外交通商部 外国政策室)
       イ・へギョン(ぺジェ大学メディア情報社会学科教授)

昼休み  (大学の学生食道での昼食)

第二部 「多文化共生のための地域社会の実践」

  発表1 日本の多文化共生のための地域社会の実践 
       中島 真一郎 (コムスタカ―外国人と共に生きる会)

  発表2 アメリカの多文化共生のための地域社会の実践 
       ダントン・フォード (外交安保研究院教授)

  発表3 韓国の多文化共生のための支援政策の事例
       カン・キジュン (ペクソク大学教授)

  総合討論
       イム・ギョンテク (全北大学日本語 日文科 教授)
       キム・ミンジュ (移住女性人権連帯)
       パク・ヨングァン(チョンウン大学ベトナム語学科)
 

4、 セミナーの開催主旨

 今回の国際セミナー開催の趣旨は、「国際結婚の増加による国際結婚家族、外国人居住者の増加により地域社会が少しずつ多文化社会に変化しているなかで、多文化時代を迎えた地方自治体、民間団体、地域住民など地域社会がどのように対応していかなければならないかという方向性、方策を模索する。最近、新しい移住人口の流入により多文化化している韓国、アメリカ、日本、オーストリラリアの経験と事例を共有しジェンダーの視点から多文化共生のための地域社会の課題を見つけ出す」というものでした。

 韓国の広域自治体である忠清南道という行政のシンクタンク等が主催し、韓国の発表者が学者―研究者、移民政策をとるアメリカの発表者が、移民局の政策担当者(大学の研究者も兼ねる)、オーストラリアの発表者が、多文化政策の地方政府統轄行政官であり、多文化政策の具体的な取組みや、移民への保護政策の具体的取組みを発表したのに対して、私を含めた日本の発表者が二人とも、総務省や自治体の政策担当者ではなく、NGOのメンバーで、NGOとしての立場での発表であることに、各国の状況が反映しているように思えました。
 

5、韓国の地元NGOと外国籍の配偶者との懇談

 国際セミナー終了後、約1時間弱の時間でしたが、国際結婚家族を支援している地元のNGOのメンバーの方と、韓国人男性と婚姻した外国人女性の団体(外国人配偶者の会  175組の国際家族を組織している)の代表を含む2名の女性(日本国籍者)との懇談会を開くことができました。NGOのメンバーによると、2006年に政府より委託を受けて国際結婚した家族の支援事業を取り組み、国際結婚家族の組織化や、そのなかの外国人妻のリーダー養成、外国人妻と結婚している韓国人男性を対象としたセミナー開催したという報告がありました。当時会員として組織していた90組の国際結婚夫婦のうち、10名ほどしか参加がなく、家庭内に問題の少ない夫のみ出席したということでしたが、夫たちがNGOの活動への協力者として動いてくれるようになったそうです。
 韓国社会で暮らす外国人妻の状況について、日本人妻2名の方がいろいろ話してくれました。「韓国人男性が日本人女性やアメリカ人女性と婚姻した場合は、『先進国』から来た妻としてみられ、子どもがいじめに遭うことも少ないが、ベトマムやカンボジア等の国から女性は、家庭内や家庭外でもいろいろ問題を抱えている家族が多い、会員同士は、まだお互いが知り合い交流していく段階にあるが、今後は、会員家族が抱えている問題についても会として話し合ったり、取り組んでいけるようにしたい。」と語ってくれました。
 政府の立法化や自治体の取り組みを契機に、NGOと連携しながら個々バラバラだった国際家族が有機的につながり、組織され、これから活動していこうとしているという印象を受けました。
 

6、夕食会

 国際セミナー終了後の夕食会が、大田市の韓国料理のレストランで開かれ、外国から参加した発表者として招待されました。私の隣に忠清南道の副知事がすわられ、話をすることができました。副知事は、韓国の内務省から出向しているキャリア官僚で、地方自治制度創設の研究のため内務省から2年間日本の東京大学に留学経験があり、日本語を話すことができました。韓国では、1993年より知事の公選制が導入されていますが、日本の地方自治制度を参考にしながらも、日本では行われていない知事の3選禁止を導入していることを教えてくれました。
 私が、「日本では、NGOが支援の担い手となっており、一部の自治体で、外国籍住民を施策の対象としようとする動きが見られるが、政府や圧倒的多数の自治体には、外国籍住民や移住女性を地域社会の構成員と認め、施策の対象として意識しているところはほとんどないのが、日本の現状です」と説明すると、不思議そうに「外国籍とはいえ、これらの人々は住民でしょう、政府や自治体が住民を施策の対象とするのは当然のことではないですか、本当にしようとしていないのですか、信じられません」「韓国人と結婚して移住してくる外国籍女性は、子どもを産む、その子ども達は韓国国民として将来の担い手となります。結婚移民として移住してきた外国籍の女性を困難な状態に置かないようにするのは行政の義務です」といわれました。移住女性を「将来の韓国国民の母親」として捉える考え方には違和感を感じましたが、行政が移住女性の権利を保護していくという発言が、建前的なものでなく、当然のようにでてくることに正直驚かされました。
 日本では、総務省から都道府県に出向しているキャリア官僚から、地域の観光業の振興に関して外国人観光客を意識することはあっても、住民として、その人権を保護するという観点から同様な発言を期待することはできそうにありませんし、そもそも地方のNGOの一員である私が、これまで同席して話をする機会も一度もないのが日本の現状です。
 

7、まとめ

 私にとって、1988年と1995年につぐ3回目で、12年ぶりの訪問でした。まず、空港での通貨の交換レートが、以前1円=10ウォンから12ウォンというのが私の認識でしたから、1円 =6.75ウォンで、ウォン高:円安となっていることに驚かされました。日本と韓国の経済格差は大きく縮小し、韓国も物価の物価水準も、日本と余り変わらないという印象でした。また、出入国手続きも、短期間についてはビザなしとなり、日本人が韓国に入国する際の入国カードの提出とパスポートの提示は必要ですが、日本から出国の際に出国カードの提出がなくなり、韓国の空港での空港税も不要で、日本国内の移動とほとんどかわらなくなっていました。
 日本で、20〜30年かけて進行してきたことが、韓国ではその2〜3倍のスピードで現実が進行し、それに対して行政が急速に上から対応しようとしているという印象を受けました。そして、日本に対する視線も、「先進国」として学び導入する対象だけでなく、日本のようにならないためにどうするかという「反面教師」のような視線で見られている感じを受けました。
 現実の韓国社会は、「単一民族意識」や「父系主義」や「男尊女卑」の意識も根強く存在することは日本と共通、あるいはそれ以上にあると思われます。しかしながら、日本とも共通する居住外国人や移住女性の増大という現実をふまえ、日本政府がその現実を直視せず、概ね「治安問題」の対象としか考えていないのと比べて、韓国社会を「単一民族社会」から「多文化共生社会」へ転換するために他国の経験を学び、どのような方法やあり方に転換していくべきかを模索するための国際セミナーを開催したり、政府が法律の制定し、各自治体がそのための条例制定や施策をどのように具体化するか競いあうとしている韓国の姿勢には学ばされます。
 日本では総務省が、ようやく2006年3月に「多文化共生推進プログラム」を発表し、自治体に具体的な取組み事例を提示していますが、国会での政府の立法化は、はやくても数年先になりそうです。
 日本が、2000年代において、テロ対策や外国人犯罪対策として、「治安」を優先して出入国管理及難民認定法の規制強化を中心とする外国人政策に終始しているのとは対照的に、韓国政府の外国人政策は、「管理と排除」を中心とした在り方から、2000年代に入り外国籍居住者を、韓国国民と同じ住民としてその存在を認め、多文化共生の地域社会づくりをめざして法律の制定や行政の施策を実視しようとしています。外国人政策の面では、日本より韓国のほうが「先進国」となっています。韓国から学びながら、地に足の着いた多文化共生の地域社会の形成を日本国内や九州内や熊本県内で目指していきたいと思います。