コムスタカ―外国人と共に生きる会

「外国人犯罪」問題


東京都内の留学生・就学生を「犯罪者」及び「犯罪予備軍」とみることへの批判
―― 最近10年間の東京都「来日外国人」刑法犯検挙人員のうち「「就学生」刑法犯検挙人員は半減、「留学生」刑法犯検挙人員は4割減少しています ――

中島真一郎
2004年3月17日

 共同通信社は、「4割が留学生、就学生 東京都内で摘発の刑法犯 東京都内で1−9月に摘発された刑法犯のうち、外国人の留学生・就学生らの占める割合が、4割を超えたことが17日、警視庁のまとめで分かった。」(2003年11月17日、共同通信配信)との誤信記事を配信しました。この記事は、東京都刑法犯検挙人員の4割ではなく、東京都「来日外国人」刑法犯検挙人員のうち「留学」「就学」の在留資格者の刑法犯検挙人員が4割を占めているという警視庁の宣伝の報道を誤ったものです。このような単純な誤信が、共同通信社の内部でのチェックを堂々と通過して配信されることに、現在のマスコミの「外国人犯罪」報道の異常さが現れています。では、東京都「来日外国人」刑法犯検挙人員のうち「留学」「就学」の在留資格者の刑法犯検挙人員が4割を占めていることは、報道に値するほどのニュース価値を持ち、また本当に東京都の「治安悪化」の要因を示すものであるかを、以下検証します。

データの出典
1、「2003年10月24日 内閣総理大臣 小泉純一郎 警察庁の外国人滞在者統計データに関する質問に対する答弁書より」
2、「2003年版  警察白書」
3、「2003年版  犯罪白書」

1、最近10年間(1993年―2002年)で、東京都「就学生」刑法犯検挙人員は半減し、また東京都「就学生」刑法犯検挙人員の約4割が「占有離脱物横領」(いわゆる放置自転車の無断使用など)によるものです。

 最近10年間の東京都「就学生」刑法犯検挙人員の推移をみると、1993年の958人を最大に、1998年189人まで毎年減少し、1999年284人より2002年482人へと増加傾向にありますが、1993年と比べると半減しています。凶悪犯が10人から14人とやや増加していますが、これは強盗犯が、4人から10人へ増加したことによるものです。窃盗犯は、513人から197人と6割以上減少しています。その他の刑法犯394人から229人と4割以上減少(うち占有離脱物横領 いわゆる放置自転車の無断使用などによるものが389人から195人へ半減)しています。
 2002年東京都「就学生」刑法犯検人員482人のうち、罪種別内訳では、凶悪犯14人、粗暴犯28人、窃盗犯197人、知能犯12人、風俗犯 2人、その他の刑法犯229人(うち占有離脱物横領 いわゆる放置自転車の無断使用などによるものが195人)です。すなわち、東京都の「就学生」刑法犯検挙人員の8割以上が、窃盗犯(約4割以上)と占有物離脱横領犯(約4割)によって占められています。2002年「就学生」凶悪犯検挙人員14人は、2002年東京都の凶悪犯検挙人員967人の1.45%を占めているにすぎません。

表1、最近10年間(1993年―2002年)で、東京都「就学生」刑法犯検挙人員罪種別推移
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
総数
958
791
507
406
244
189
284
377
378
482
凶悪犯
10
11
13
14
(殺人)
(強盗)
11
10
(強姦)
(放火)
粗暴犯
19
10
14
14
15
18
24
28
窃盗犯
513
419
235
183
109
64
125
180
159
197
知能犯
14
13
23
18
14
12
風俗犯
15
13
13
15
10
その他
394
323
219
176
98
105
135
156
167
229
(占有)
389
320
204
162
81
101
129
141
153
195

注1) 凶悪犯は、殺人・強盗・放火・強姦の4つの罪種で構成されています。
注2) 粗暴犯は、暴行・傷害・脅迫・恐喝の4つの罪種で構成されています。
注3) 知能犯は、詐欺・横領・偽造の3つの罪種で構成されています。
注4) 風俗犯は、賭博・強制わいせつ・公然わいせつなどの罪種で構成されています。
注5) その他の刑法犯は、占有離脱物横領(その9割以上が自転車)、器物損壊、住居侵入などで構成されています。
注6) (占有)は、その他の刑法犯のうち占有離脱物横領のことで、自転車の占有離脱物横領が大半を占めています。

2、最近10年間(1993年―2002年)で、東京都「留学生」刑法犯検挙人員は4割以上減少し、また東京都「留学生」刑法犯検挙人員の約5割が「占有離脱物横領」(いわゆる放置自転車の無断使用など)によるものです。

 最近10年間の東京都「留学生」刑法犯検挙人員の推移をみると、1994年の461人を最大に、1998年144人まで毎年減少し、1999年161人より2002年250人へと概ね増加傾向にありますが、1993年と比べると4割以上減少しています。(なお、1989年から2002年の過去14年間の最大は1991年919人でしたから、それと比較すると7割以上の大幅減少となっています。)
 凶悪犯が3人から6人へ増加していますが、殺人犯は最近10年間0人で、強盗犯が、3人から5人へ増加したことによるものです。窃盗犯は、208人から88人と6割弱減少しています。その他の刑法犯218人から133人と4割弱減少(うち占有離脱物横領 いわゆる放置自転車の無断使用などによるものが215人から119人へ5割弱減少)しています。
 2002年東京都「留学生」刑法犯検人員250人のうち、罪種別内訳では、凶悪犯6人、粗暴犯14人、窃盗犯88人、知能犯6人、風俗犯3人、その他の刑法犯133人(うち占有離脱物横領 いわゆる放置自転車の無断使用など119人)です。すなわち、東京都の「留学生」刑法犯検挙人員の占有離脱物横領犯が約5割を占めています。2002年留学生凶悪犯検挙人員6人は、2002年東京都の凶悪犯検挙人員967人の0.62%を占めているにすぎません。

表2、最近10年間(1993年―2002年)の東京都「留学生」刑法犯検挙人員罪種別推移
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
総数
446
461
305
258
192
144
161
187
252
250
凶悪犯
(殺人)
(強盗)
(強姦)
(放火)
粗暴犯
17
14
窃盗犯
208
189
128
97
81
51
57
67
89
88
知能犯
風俗犯
12
その他
218
250
156
140
90
80
92
102
133
133
(占有)
215
246
149
129
79
78
89
97
124
119

注1) 凶悪犯は、殺人・強盗・放火・強姦の4つの罪種で構成されています。
注2) 粗暴犯は、暴行・傷害・脅迫・恐喝の4つの罪種で構成されています。
注3) 知能犯は、詐欺・横領・偽造の3つの罪種で構成されています。
注4) 風俗犯は、賭博・強制わいせつ・公然わいせつなどの罪種で構成されています。
注5) その他の刑法犯は、占有離脱物横領(その9割以上が自転車)、器物損壊、住居侵入などで構成されています。
注6) (占有)は、その他の刑法犯のうち占有離脱物横領のことで、自転車の占有離脱物横領が大半を占めています。

3、東京都刑法犯検挙人員に占める比率は、2002年「就学生」刑法犯検挙人員は1%、「留学生」刑法犯検人員は0.5%にすぎません。

表3、2002年東京都「来日外国人」在留資格別刑法犯検挙人員
合法滞在者
1558人 構成比76.9%
不法滞在者(469人 構成比23.1%)
総数
不法残留者 (254人)
不法入国・不法上陸
就学
留学
短期滞在
その他
就学
留学
短期滞在
その他
検挙人員
482
250
180
646
46
12
150
46
215
2027
構成比
23.8%
12.3%
8.9%
31.9%
2.3%
0.6%
7.4%
2.3%
10.6%
100.1%
  出典 (「来日外国人犯罪中の就学生・留学生に係る犯罪行為の現状、不法残留者の国籍・在留資格について」、平成15年6月30日 組織犯罪対策第一課)より。

注1) 構成比は、小数点第二位以下を四捨五入しているため合計が100.1%となっています。
注2) 東京都刑法犯検挙人員は、警視庁管内で刑法犯として検挙された被疑者のことで、「就学生」「留学生」刑法犯検挙人員には外国人登録が東京都以外の外国人も含まれます。

 本節と次節では、警視庁による資料「来日外国人犯罪中の就学生・留学生に係る犯罪行為の現状、不法残留者の国籍・在留資格について」(平成15年6月30日 組織犯罪対策第一課)を見てみます。(同資料の全文は末尾に掲載しておきます。)

 警視庁は、2003年6月30日の警視庁による「来日外国人犯罪中の就学生・留学生に係る犯罪行為の現状、不法残留者の国籍・在留資格について」(平成15年6月30日 組織犯罪対策第一課)で、「2002年東京都「来日外国人」合法滞在者の就学・留学生732人(36.1%)、不法在留していた元就学生・留学生58人(2.9%)の計790人(39.0%)が犯罪を行っており全体の約4割を占めている」と東京都内の留学生・就学生刑法犯検挙人員が「来日外国人」刑法犯検挙人員の約4割を占めていることを強調しています。
 しかし、2002年東京都刑法犯検挙人員47828人のうち「来日外国人」刑法犯検挙人員2027人は4.2%を、就学生482人は1.0%、留学生250人は0.52%を、就学生・留学生あわせては1.5%を占めているにすぎません。
 東京都の「就学生」及び「留学生」の刑法犯検挙人員の特色として、いわゆる放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領犯が4割―5割を占めるなど多いことが指摘できます。2002年の東京都「就学生」刑法犯検挙人員482名のうちの40%(195名)、2002年の東京都「留学生」刑法犯検挙人員250名のうちの48%(119名)が、放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領容疑で検挙された被疑者で占められています。最近10年間でみても、放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領容疑で検挙された被疑者が、「留学生」「就学生」刑法犯検挙人員の構成比の約4割〜5割を占めています。

4、「(東京)都内の合法滞在者(就学・留学生)に係わる刑法犯行為者率」への批判

 警視庁発表の同資料中の「刑法犯行為者率」は、法務省の2002年版の統計(2001年12月末時点のデータ)で分母数を算出していますので、2002年12月末の外国人登録者数を示す「2003年版在留外国人統計」(財団法人 入管協会)のデータから算出しなおしておきます。

注) 「刑法犯行為者率」は、その在留資格者数を分母に、その在留資格の刑法犯検挙人員を分子とした比率で、「刑法犯検挙人員率」と呼んだ方が実態を正確にあらわしますので、以下、刑法犯検挙人員率(%)と呼びます。東京都刑法犯検挙人員率は、0.391%は、人口10万人あたり391人が刑法犯として検挙されていることを示します。

表4、2002年東京都「来日外国人」在留資格別刑法犯検人員比率
東京と外国人登録者数(人)
及び東京都の人口
刑法犯検挙人員(人)
検挙人員比率(%)
@総数(短期滞在者の外国人登録者を含む)
334751
1558(短期滞在者180人を含む)
0.465
A総数(短期滞在者の外国人登録者を除く)
310683
1378(短期滞在者180人を除く)
0.443
B就学生
23355
482
2.064
C留学生
35000
250
0.714
Dその他
252328
646
0.256
E不法滞在者
12万人以上(推定)
469
0.391以下
F東京都全体
1221.9万人(2002年10月1日)
47828
0.391

注1) 東京都刑法犯検挙人員は、警視庁管内で刑法犯として検挙された被疑者のことで、外国人登録が東京都以外の外国人も含まれます。特に東京都のように他からの流入が多い自治体では、分母を東京都外国人登録者として算出した場合、「刑法犯検挙人員率」は、実態より大きくなります。

注2) 「来日外国人」犯罪発生率が日本全体の犯罪発生率より高いか否かは、人口10万人当たりの刑法犯認知件数を表す「犯罪(発生)率」を算出して比較する必要がありますが、刑法犯認知件数のうち「来日外国人」によるものがいくらあるかは不明なため、比較して統計で示すことはできません。従って、警視庁の「刑法犯行為者率」というものは、私のいうところの「刑法犯検挙人員率」であって、事後的に刑法犯として検挙された人員を分子として、その構成人口数を分母として示すものでしかありません。

注3) 「短期滞在者」は、外国人登録義務がなく、その大多数は外国人登録していませんし、15日以内、90日以内の在留期間ですので、分母の人口数が不明です。2002年12月末現在の東京都「短期滞在者」の登録者数は24068人ですので、外国人登録者総数からその分を差し引いた外国人登録者数310683人を分母として、合法的在留資格者(「短期滞在者」刑法犯検挙人員180人を除く)刑法犯検挙人員を分子とする検挙人員率0.44(%)が、外国人登録者総数を基準とする検挙人員率より「来日外国人」合法的在留資格者の検挙人員率をより正確に表します。

注4) 「不法滞在者」(「不法残留者」と、「不法入国者」「不法上陸者」を含む)の東京都内人口も不明ですが、警視庁は「2003年10月17日の不法滞在者取締り強化の共同宣言」で、「不法滞在者」の全国25万人の半数が東京都にいると推定しています。

 以上の表4から、刑法犯検挙人員となるのはそれぞれの在留資格のごく一部であることがわかります。2002年の刑法犯検挙人員率は、東京都全体が0.391%と比べて、東京都「来日外国人」合法的在留資格者(「短期滞在者」を除く)が0.443%、「不法滞在者」が0.391%(12万人と推定した場合)とほとんど変わらないことがわかります。さらに「就学」「留学」を除いた合法的在留資格者が0.256%と東京都全体より低くなっています。
 「就学生」「留学生」の検挙人員率が2.064%と0.714%と高くなっていますが、「就学生」「留学生」の刑法犯検挙人員の約4割、約5割が放置自転車の無断使用などの占有離脱物横領容疑で検挙された被疑者であること、強盗犯などの凶悪犯検挙人員(2002年)は「就学生」14人と「留学生」6人と少ない一方、窃盗犯が4割程度を占めていることが指摘できます。これは東京都内の就学生・留学生のなかで、一部が経済的に困窮していることなどを理由に窃盗犯として検挙されるものが相対的に多いことを示しています。

 問題は「留学」「就学」などの「在留資格」にあるのではなく、その集団の経済的・社会的状況にあります。東京都の「就学生」や「留学生」刑法犯検挙人員は、10年前に比べて大幅に減少しています。刑法犯として検挙される者は、「留学生」「就学生」の在留資格者のうちの一部にすぎませんが、「就学生」や「留学生」を「犯罪者」や「犯罪予備軍」として危険視して、その取締りを厳しくするのではなく、「就学生」「留学生」の日本での学習・生活環境を受け入れ側がより整備し、犯罪に陥らなくとも暮らしていける状況を作ることや、自転車の防犯登録制度を周知徹底させ、放置自転車の無断使用などが犯罪となることを啓発していくことが、刑法犯となる者を現在よりさらに減少させていくための有効な方法です。

資料 「来日外国人犯罪中の就学生・留学生に係る犯罪行為の現状、不法残留者の国籍・在留資格について」(平成15年6月30日 組織犯罪対策第一課)

注) 資料は、原文どおりですが、数字の一部で四捨五入計算の明らかな間違いのある箇所は訂正しています。

 合法滞在者の就学・留学生732人(36.1%)、不法在留していた元就学生・留学生58人(2.9%)の刑790人(39.0%)が犯罪を行っており、全体の約4割を占めている
合法滞在者
1558人 構成比76.9%
不法滞在者(469人 構成比23.1%)
総数
不法残留者 (254人)
不法入国・不法上陸
就学
留学
短期滞在
その他
就学
留学
短期滞在
その他
検挙人員
482
250
180
646
46
12
150
46
215
2027
構成比
23.8%
12.3%
8.9%
31.9%
2.3%
0.6%
7.4%
2.3%
10.6%
100.0%

2、都内の合法滞在者(就学・留学生)に係わる犯罪行為率
 平成14年版の法務省の「在留外国人」統計によると、都内の外国人登録をしている就学生は21402人、留学生は30566人である。この人数を母数として昨年中の就学・留学生による刑法犯の犯罪行為率を算出すると、次表のとおりである。
都内の外登者数
(推定)
刑法犯行為者数
刑法犯行為者率
総     数
318996
2027
0.64%
就学生
21402
528
2.47%
留学生
30566
262
0.86%
就・留小計
51968
790
1.52%

3、不法残留者の国籍・在留資格(平成15年1月1日現在の法務省統計・上位5位)
韓国
フイリピン
中国
タイ
マレーシア
その他
総数
短期滞在
44819
14046
2562
14288
9292
70491
155498
興行
52
10481
282
46
9
900
11770
就学
624
373
7920
118
17
727
9779
留学
610
12
4321
33
30
444
5450
研修
40
485
1220
295
14
1355
3409
その他
3729
4703
13371
913
80
11850
34646
総数
49874
30100
29676
15693
9442
85767
220552


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