くまもと国際化総合指針への意見

2009年2月20日

         コムスタカー外国人と共に生きる会

  〒860-0845 熊本市上通町3−34 手取カトリック教会気付

 

     熊本県が募集したパブリックコメントは2009年1月23日から2月22日まで応募期間に、2団体。

     (コムスタカー外国人と共に生きる会、移住労働者と共に生きるネットワーク九州・福岡ブロック)

と1個人からの意見が寄せられ、2009年3月16日付けの熊本県のホームページで回答が掲載れました。

そして、熊本県の「くまもと国際化指針」は、2009年3月19日に決済され、正式に成立しました。

   

はじめに、

 

コムスタカー外国人と共に生きる会ら4団体が、「帰国者や外国籍住民のための8項目施策の提言」

(添付資料 1)を熊本県知事宛に提出した2002年9月の時点では、熊本県の行政として、帰国者や外国籍住民の施策の回答は

ほぼゼロ回答で、外国籍住民は行政の施策の対象外となっていました。私たち4団体の提言へ、

「このような(外国籍住民という)視点での提言自体がカルチャーショックであった」と述べた熊本県職員もいました。

それから6年をへて、少しずつですが、熊本県・熊本市の行政においても帰国者や外国籍住民を対象とし、

意識した施策が少しずつ行われてきています。まず、行政として、帰国者や外国籍住民を、

大多数を占める日本国籍を持つ住民と同様な住民として、その存在を認め、行政の施策の対象として

意識することが必要です。そのためには、帰国者や外国籍住民のニーズを把握し、その直接的な声を反映できる

仕組みや意見交換の場を保証する事、あるいは、帰国者や外国籍住民の支援活動を担っている民間団体との連携も不可欠です。

 熊本県内でのこの6年間の経験では、帰国者や外国籍住民の主体を尊重し、そのニーズと一致した内容で、

これらの人々の問題に取り組むNGOなど民間団体と連携し、行政内部にも多文化共生の地域社会作りに意欲と

関心を持つ担当者が存在した場合には、全国的にも、あるいは九州内でも先駆的な施策が実施され、具体的な効果と実績を挙げています。

コムスタカー外国人と共に生きる会が、提言や作成に関与して実現した施策に、@2003年度から運用されている「DV被害者や単身者も

利用できる自立のための中間施設としてシェルターの設置」、A2005年度より配布された「 DV被害防止と被害者保護のための9ヶ国語

(日本語・英語・韓国語・タイ語・フィリピン語・中国語・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語)の多言語対応したリーフレットやマニュアルの作成」、

B2004年8月より運用されている「熊本県自動車免許の学科試験での中国語と英語試験の導入」などがあります。

(添付資料2 「熊本県など多文化共生施策の現状―2002年9月 熊本県への外国籍住民・帰国者のための8項目の

施策の提言の実施状況」)

2007年7月24日に韓国の忠清南道天安市で開催された「多文化社会の到来と地域社会の対応」をテーマとする国際セミナー

(主催 忠清南道女性政策開発院、忠清南道女性フォーラム)に、熊本県からの紹介で、コムスタカの会員が参加し、韓国がこれまでの

「管理と排除」を中心とする日本の入管政策の後追いから脱して、外国人との多文化共生をめざす政策に劇的に転換していることを

教えられました。

韓国では、2004年以降、政府や自治体レベルで、いわば行政主導で、次々と在住外国人や結婚移民女性の保護と権利擁護を

実現する法律や条例などを制定し、そのための施策を実行しています。その国際セミナーの主催団体の主要メンバーであり、

セミナーでの「韓国の多文化社会の現状と課題」テーマの報告者であったキム ヨンジュさんを講師に招いて、その韓国から

学び、熊本においても多文化共生の地域づくりをめざして、2007年12月に「多文化共生の地域社会をめざす講演会」

(主催 コムスタカー外国人と共に生きる会主)を開催しました。この講演会には、60名(うち約4割が外国籍住民とその家族)を

こえる参加があり、在住外国籍住民と家族、NGO関係者、熊本県国際課や、男女共同参画パート−ナーシップ推進課からの参加を含めて

行政関係者などが初めて一同に会して、韓国の多文化共生政策への転換とその施策を学びながら、熊本での多文化共生の地域社会を

作っていくための第1歩、スタートとなりました。(添付資料 3 「多文化共生の地域社会をめざす」講演会報告

以上のような取組みをしてきたNGOの立場から、11年ぶりに見直される「くまもと国際化総合指針(案)」(以下、素案)において、

「国際交流や国際貢献」に加えて、新たに「多文化共生の地域づくり」を柱にすえて作成されることを、大きな転換として評価し支持します。

また、素案の内容は、2006年3月に総務省が公表した「地域における多文化共生推進プランについて」(以下、推進プラン)の枠組みに

基づくものですが、熊本における外国籍住民やその家族などの実態調査やその意見などを踏まえて、より具体的な施策を実施しようと

していることも支持します。

しかしながら、その基本的方向性は支持できても、「多文化共生の地域社会」の実現へむけた展望が不明確で、そのための施策の

具体化が不十分に感じられ、コムスタカー外国人と共に生きる会として素案に対する意見を述べます。

 

 1、 「多文化共生条例」の制定について

 

総務省の推進プランには、@コミニュケーション支援、 A 生活支援  B 多文化共生地域づくり、多文化共生概念の共有化、

 C 多文化共生のための推進体制の整備の4つがあります。

熊本県の素案でも、U多文化共生の地域づくり として 「1、コミニュケーション支援、2、生活支援、3、多文化共生の理解促進 、

4、 施策実行のための体制」と推進プランに一応対応しています。

しかし、総務省の推進プランが、「基本計画や、条例の整備、推進」を明記しているのに対して、熊本県の素案の「4 施策実行

のための体制」の内容は、「国と他県との連携、主体間の役割や連携」としかかかれていません。

素案が、「多文化共生の地域社会づくり」のスタートとして意義を有するとしても、熊本県として今後「多文化共生条例」の制定、

「多文化共生基本計画」の策定を目指し、その下で具体的な施策を実行する「国際化総合指針」を位置づけることを明記すべきです。

すでに、熊本県の姉妹関係にある韓国の忠清南道では、「居住外国人保護条例」(2007年7月制定施行   添付資料4 )を

制定しています。その第3条「@居住外国人は、法令または他の条例で制限がない限りにおいて住民と同じく道の財産と、公共施設を

利用することができ、道の各種の行政的・財政的な恩恵を受けることができる。A 忠清南道知事(以下、「道知事」という)は、

居住外国人が地域共同体の構成員として道政に参加できるように努めなければならない。」と、居住外国人の地位を定めています。

また、日本の宮城県においても、「多文化共生社会の形成の推進に関する条例」が制定され、2007年7月11日施行されています。

熊本県においても「くまもと国際化総合指針」の改定にとどまらず、条例の制定を目指すことを明記すべきと思います。

 

2、 「外国籍熊本県民会議」などの機関の設置について

 

上記の韓国忠清南道での「居住外国人保護条例」3条2項では、「A 忠清南道知事(以下、「道知事」という)は、居住外国人が

地域共同体の構成員として道政に参加できるように努めなければならない。」と明記しています。

熊本県の素案では、「3、多文化共生の理解促進 (2) 外国人住民の地域社会への参画」において取組の方向性とされているのは、

「各種審議会等への外国人住民を積極的に登用する、自治会など地域コミュニテイへの加入促進を図る」だけしかありません。

あらゆる場で、男女の共同参画が求められていること同様に、外国籍住民の参画が求められています。日本国内でも、

すでに神奈川県 「外国籍県民 かながわ会議」、神奈川県川崎市「外国人市民代表者会議」など各地で、外国籍住民の中から

代表が選ばれる機関が設置されています。また九州内でも、福岡市は「福岡市多文化共生懇話会」を2007年に設置しており、

北九州市も、「多文化共生懇話会」を2009年度より設置しようとしています。

熊本県においても、「外国籍熊本県民会議」「熊本県多文化共生懇話会」など、外国籍住民のなかからその実情に応じた代表ら

によって構成される機関を設置し、その意見を施策に反映させていくことが必要と思います。

 

3、  「外国人差別禁止条例」の制定について、

 

素案では「、3、多文化共生の理解促進 (1)地域社会に対する意識の啓発  日本人の多文化共生に関する促進、・キーパーソンの

育成・交流イベントの開催など」が記載されているのみです。 日本の地域社会では、外国施住民に対して偏見や差別意識に基づく差別

や、根拠のない「治安悪化」への不安が根強く存在します。

2003年春に、熊本県菊池市(旧菊池市)が「構造改革特区」として、「韓国からのビザなしで来日できる特区」を提案した際、それが報道

されるや否や多くの熊本県民から何千通の「治安が悪化する」「スリが増える」等の講義や反対意見が寄せられました。日本政府は、

2005年の愛知地球博の開催時期にあわせた施行期間をへて、2006年度より韓国、台湾からのビザなし来日を可能としました。

その結果、熊本県においても外国人観光客、宿泊客か急増し、韓国人宿泊客数が、2007年度東京都、大阪府についで全国3位となるなど、

その政策の恩恵を全国の中で最も受けています。もし、圧倒的多くの県民のなかに根強くある外国人を排斥する反対世論どおりに政府の政策が

維持されていたら、熊本県民の被る経済的損失・対外的イメージの損失は小さくなかったと思われます。外国籍住民の人権が守られ、安心して

暮らせる地域社会となるため、日本国籍住民への多文化共生社会への理解を促進するための啓発活動にとどまらず、「(外国人)差別禁止条例

」等の制定をめざすべきと思います。

 

4、「多文化共生の地域づくり」のための予算の充実と組織の改編と人事について

 

(1) 素案の示す「多文化共生の地域づくり」を具体化していくためには、そのための予算の充実や、組織の改編、適切な人材の配置等の改革

が不可欠です。ところが、素案については、これらの課題ついてはほとんどふれられていません。

まず、従来までの国際貢献・国際交流に使われた予算額や決算額、そして、外国籍住民支援の予算額や決算額と比べて、素案に示された

新しい指針策定後、外国籍住民支援や多文化共生政策のための予算額がどのように変化し、拡充されていくのかその方向性を示すべきです。

 

(2) この素案にもとづく指針の実行を担当する国際課は、現在まで地域振興部に設置されており、熊本県の組織のなかに

「多文化共生の地域づくり」を専門に担当する部署は存在していません。

日本政府も、内閣府に2009年1月9日より、「定住外国人外国人施策推進室」を設置しました。また群馬県では、「国際課、多文化

共生推進係」が設置されています。熊本県においても、多文化共生の地域づくりを推進し、縦割り行政の弊害をなくし、「外国籍

住民ら」を主体として認識した総合的な調整機能をもった専門部署として、「多文化共生課」あるいは、「多文化共生推進室」を設置していく

など、素案の具体的実行のための組織の整備や改編についてその方向性を示すべきと思います。

 

(3) これまで経験では、外国籍住民の主体を尊重し、そのニーズと一致した施策が具体化されていくためには、行政内部にも

多文化共生の地域社会作りに意欲と関心を持ち、かつ実行できる権限をもった職員が存在することが不可欠です。そのためには、

多文化共生の地域づくりへ向けた職員の研修の充実と、多文化共生の地域社会づくりへの意欲と権限のある適切な人材の配置

を行うことを明記すべきと思います。

 

5、国際貢献としての難民の受入れについて、

 

 これまで日本は、「難民鎖国」政策をとっていると国際的に批判されるほど難民の受け入れに消極的でした。近年、日本政府も

、少しずつではありますが、難民の認定数を増加させています。また、祖国を逃れて他国の難民キャンプなどで暮らす難民を、

さらに別の国がうけいれる「第三国定住」制度の導入を検討しています。(この制度の導入は、難民流入国の負担軽減を通じて

難民・人道支援分野での日本の貢献を示すのが狙いと言われています。)

かつて、日本が、1970年代半ばからの大量のインドシナ難民の受け入れを行っていたとき、熊本県内にもインドシナ難民を

受け入れてきた経験があります。これらの経験を踏まえ、熊本県の国際貢献施策の一つとして、難民の熊本県内への受け入れ

促進やそのための日本語や生活習慣、や職業訓練などを行う「定住化センター」の設置などを提案します。

 

 

(以下の添付資料は、コムスタカのホームページに掲載済みです)

添付資料1 「熊本県への外国籍住民・帰国者のための施策の提言」

 

添付資料2 「熊本県など多文化共生施策の現状―2002年9月 熊本県への外国籍住民・帰国者

のための8項目の施策の提言の実施状況」

 

添付資料3  「多文化共生の地域社会をめざす」講演会報告

 

添付資料4  韓国忠清南道「居住外国人保護条例」(2007年7月施行)