私たちを、農具のように扱わないで下さい。

夏暁明(中国籍の農業技能実習生)

(2008年5月25日の移住労働者と共に生きるネットワーク第10回総会での発言から)

 

 私は,中華人民共和国山東省で生まれた夏暁明といいます。私は,今22歳です。  

私が19歳だった2005年1月に,中国の青島九同国際経貿有限公司,略してJTI

という派遣会社に登録しました。その時の登録料は,5万元で,日本円にしたら,80万円

くらいです。このお金は,私の父親が,親戚や銀行から借金をしてつくってくれたものです。

登録に必要なのは,それだけでなく,父親と伯父と母方の叔父に保証人になってもらい,

自宅を担保にいれなければなりませんでした。

そして,私は,3ヶ月間の日本語研修が終わって,2006年4月19日に来日しました。

そしてその日か次の日くらいに,社団法人熊本県国際農業交流協会の事務局長だったMさんから,

「パスポートを紛失するといけないので預かります。」と言われて,承諾書という書面にサインを

求められました。

  私は,来日してすぐにパスポートを取り上げられるなど思ってもいなかったのですが,来日したばかりで,

何をどうしたらよいのかもわからないし,言うことを聞かなければ帰国させられてしまうのではないかと思って,

承諾書にサインをしてパスポートを預けました。この時のMさんとのやりとりには,JTI熊本支社のTさんと

Gさんが立ち会って通訳をしていました。

 そして,熊本JA中央教育センターで1ヶ月の研修が終わってからは,Iさんのところで,

本格的に農作業の仕事をさせられました。仕事は,トマトの摘果などの作業でした。

  48度にもなるビニールハウスの中で1日中作業をしなければならなかったり,7月から9月までの繁忙期には,

毎日,午前8時から午後6時まで働き,休日も月に1,2回くらいしかありませんでした。

11月30日からは,IさんからHさんの食肉加工場に派遣されて,精肉,調理加工などの食肉関係の仕事をさせられ,

2007年1月からは,Wさんのところに派遣されて,イチゴの摘果などの作業をさせられました。この時は,

休みは,日曜日だけで,午前8時から午後7時まで働かせられました。残業もかなりの時間ありました。

  このころに,Iさんが,Wさんに「私の研修生なので使ってやってください。」と言っているのを聞いて,

まるで私が道具のように扱われているようでとても悲しかったです。

 

5 4月1日からは,またIさんのところで稲作とトマト作業を両方をさせられ,ほとんど休みもなく

一日中仕事をさせられました。

  私が体調が悪くて残業をしたくないときがあっても,「一日8時間では足りない,今からは必ず1時間は

残業しなければならない。」と仕事を強制させられました。

  夏場には,熱中症で倒れたこともありましたが,病院にすら連れていってもらえませんでした。それに,

毎日の仕事にへとへとになりながら仕事をしていると,Iさんは,「やる気がないならまとめて中国に返す」とか

「残業したくなければ外にする人がいっぱいいる」などと言って,私達を脅していました。

このように道具のようにしてずっと働かされてきましたが,1年目は,月給6万7000円,2年目は最低賃金に

基づいて,1時間612円から620円くらいもらっていました。でも,残業代は,1年目は時給350円,

2年目は時給400円しかありませんでした。

残業代があまりにも少ないので,Iさんに尋ねても全く取り合ってもらえませんでしたので,労働基準局に相談を

しました。すると,労基署から問い合わせがあったようで,Iさんが,私達の寮にきて,誰かに電話して,大声で

「誰がそんなことを言った。電話したやつは殺されるぞ。」とか言っているのが聞こえました。また,

「あなたたち,JTI(中国側の送出機関)社長はどんな人か知っているか。彼はヤクザだ。中国は,金さえ

あれば何でもできる社会だ。だから私達はあなた達を心配していますよ。あなたたち国に帰ったら殺されるかも

しれませんよ。」と言って,私達を脅しました。私達は,とても怖くて眠れず,ノイローゼになりそうでした。

  こんなひどい環境で仕事をさせられていたので,協会のMさんに相談したら,Mさんがよくしてくれて,協会が

新しい受入先農家に代えてくれるよう言ってくれました。手続きに時間がかかるとのことでしたので,一旦中国に

帰国して生活していました。

  すると,協会が,Iさんのやり方は違法ではないので,Iさんが改善したら,またIさんのところに戻るかと

いうことを私に聞いてきました。協会がIさんのやり方を違法でないと言っているのに驚き,憤りを感じました。

まして,Iさんのところに戻ったら何をされるかわからず怖かったので,当然これを断りました。

  すると,その後,協会からは,日本にしばらく帰ってこないように言われ,さらには,私に非常によくしてくれた

Mさんが,協会に出入り禁止となったことを聞きました。

  私は,協会が,私達を見捨てて,新しい受入先を探していないんじゃないかと不審に思い,熊本県内の地域労組

ローカルユニオンに加入して、3回団体交渉を続けてきました。しかし、協会も受け入れ農家も、「被害はない」

というばかりで、私達の苦しみを全く理解しようとしてくれません。「あなた達がことを荒立てなければ、新しい

受け入れ先もあったのに」と私たちが悪いように言いました。4月9日に熊本地方裁判所に提訴し、6月13日第一回目

の口頭弁論が行われることになっています。

日本で仕事をしようと思ってきたのに、今は仕事できずとても辛いです。だけど、同じように苦しんでいる

仲間達のためにもがんばりたいともいます。ご支援よろしくお願いします。

 

参考資料

 

 九州7県の研修生及び技能実習生について

2004年12月末

2005年12月末

2006年12月末

研修生総数

2560

3878

5084

福岡県

547

832

1235

佐賀県

317

365

477

長崎県

444

583

759

大分県

246

333

472

熊本県

408

806

1071

宮崎県

308

576

638

鹿児島県

290

383

432

失踪者数(技能実習生を含む)

 81

111

157

技能実習への移行が認められている職種

 62

62

62

 

不正行為を行ったと認定された受け入れ機関( 全国統計ベース )

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

92  件

210  件

180件

229件

449件

(出典 * 2008年2月19日 移住労働者と共に生きるネットワーク九州と福岡入管との意見交換会

における福岡入管からの回答及び2007年は法務省入国管理局HPより)

 

コメント(中島)

 研修生は、2005年と比べて総数で2倍以上に増加し、九州7県全てで増加しています。

中でも熊本県と福岡県は1000名以上となっています。一方、失踪者数も、2004年12月末81人から

2006年12月末157人へと約2倍に増加しています。全国統計ですが、「研修生及び技能実習生

入国在留管理に関する指針」に規定された不正行為を行っているとして3年間の受入停止を受けた

受入機関の数も2003年92軒から2007年449件へと2倍以上に増加しています。

これらは、研修生や技能実習生が増大していくなかで、研修生制度や技能実習生制度の

ひずみが拡大してきていることを示しています。

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