熊本での農業研修生問題

   1997・8・5 中島真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

 

 1993年8月下旬、熊本県国際農業交流協会(財団法人として熊本県から年30

万円の補助金を得ている。以下、協会)を通じて県内の農家で農業研修を1年間の予

定で受けていたフイリピン人28名と中国人18(当初21名で途中3名が帰国)名

が、研修内容や待遇を不満として語学研修合宿を中断し全員の帰国を要求する事件が

ありました。研修が10ヶ月を経過していた中国人18名にたいしては、受け入れ団

体である協会は全員帰国させることに合意しましたが、研修が5ヶ月しか経ていない

フイリピン人に対しては、帰国させることを拒否したため、フイリピン人研修生28

名が、手取カソリック教会に逃げてきました。事情を聞いてみると、「研修とは名ば

かりで1日9時間から10時間以上の労働をさせられる。農業と関係のないレストラ

ンや建設関係の仕事をさせられた研修生もいる。手当が、月2万円しか支給されない

。事前の契約や聞かされていた話と違いすぎる。協会は、研修生の不満や要求に全く

誠実に対応しようとしない。パスポートも返してもらえない」等が主張され、すぐに

帰国したいという要求でした。また、ある研修生は帰国したい旨を受け入れ先の農家

に言ったところ、「おまえたちには、一人100万円もかかっている。帰るなら、金

を返せ」といわれたことも明らかになりました。民法上の公益法人として公益目的の

ために会員の会費で運営されていなければならない協会は、会員275名、年会費一

人当たり14万円で運営されていると説明されていましたが、実際には、研修生を受

け入れた農家が研修生一人当たり、80万から100万円を協会に支払うことで運営

されていることも、この事件をきっかけに明らかになりました。

 フイリピン人研修生28名を手取カソリック教会に保護しながら、熊本県国際課に

人権相談にいき、県庁記者クラブに連絡しマスコミに公にしました。マスコミが大き

く報道したこともあって、協会側との帰国の交渉の結果約1週間後に協会側の費用負

担で帰国させることができました。協会側は、残るメキシコ人の研修生は、日本での

研修を希望しているとして、福岡入管に6ヶ月の在留期間の更新を申請しました。私

達は、この事業は、国際交流や研修を装っているが、実態は、農家の人手不足を補う

就労斡旋事業であり、協会は公益法人の適格性を欠き、入管法や職業安定法や労働基

準法に違反する事業であるとして、熊本県には、協会の監査や法人格の取り消しを、

また福岡入管には、就労斡旋事業としてビザ更新やビザ交付を今後行わないことなど

を申し入れました。その結果、県は、1990年の認可以来協会に対して一度も行な

ってこなかった立入り検査を実施し、認可は、取り消さなかったものの1993年

12月に「公益性欠如の事実」を認め改善指導しました。また、福岡入管も、同年12月

に「研修目的以外の労働があった」と認定して、残るメキシコ人研修生11名の在留

期間を3ヶ月に短縮し、1994年1月に帰国させるように指導しました。

協会は、農業研修事業の存続をはかろうとメキシコ人の次に来日が予定されていた

タイの政府関係者を来日させ、研修事業の必要性をアピールするなど存続に必死でしたが、

入管が今後同事業にビザ発給しなくなり、この事業は中断することになりました。

 

 入管法で「技術研修生」のための在留資格が認められたのは、1982年であり、

その当時の受け入れ機関は公的機関相互か、日本の親会社と現地法人の関係しか想定

されていませんでした。しかし、外国人労働力を求める中小零細企業の要望も強く、

1990年10月に研修に関する基準省令の規定が緩和され、日系人二世、三世への

「定住ビザ」交付とともに、外国人の労働力を活用する合法的抜け道が広げられまし

た。農業研修生の民間受け入れ団体については、「民法34条の規定により設立さ

れた公益法人であること・国または、地方自治体から資金その他の援助を受けている

こと・研修期間の5分の1以上は実技研修以外の座学等であること・研修の実施状況

について3ヶ月に1回監査を行いその結果を地方入国管理局に報告すること・研修手

当は、就労の対価とみなされない程度の金額であること。」等でした。上記の協会も

この改正に対応して受け入れ団体として結成されたものでした。

しかし、現実には、民間団体で研修事業を行う組織はその財源を受益者といえる受

け入れ農家に求めざるを得ず、書類上公益法人を装いながら「研修」や「国際交流」

という美名の下で、外国人を食い物にする就労斡旋事業が行われてきました。

この事業は、入管法、職業安定法、労働者派遣事業法、労働基準法違反の事業で

しかありません。しかし、より問題なのは、外国人研修生が集団帰国を決意し、

私達の会に救援を求めてこなければこれらの違反の事実は発覚することなく、4年間

存続しかつ受け入れ人数も当初の20名余りから120名へと拡大し、さらに全国の

モデル事業として他県へも広がりかけていたことにあります。研修制度には、入管、県

、協会、受け入れ農家(あるいは、企業)といった日本人の側に外国人さえ文句を言わ

なければ問題ないとする利益共同体の構造がつくられていることです。

問題の解決のためには、実態が、就労である以上、研修として装うのをやめ、農業

(工業)労働者の受け入れを禁止している入管法を改め、外国人の就労を合法化して

いくことです。

 

追記

 3年余り中断していた農業研修生事業が、1997年3月よりタイ人研修生12名

を受け入れることで再開されてきています。前回社会問題化したこともあって、入管

は、ビザ発給を3年間認めない措置を協会に取りましたが、その期限が過ぎ、問題点

が改善されたとしてビザの発給を再開しました。協会は、前回問題となった中国人、

フイリピン人、メキシコ人ではなく、まず、タイ人そしてインドネシア人の研修生の

受け入れから始めています。しかし、前回同様に、来日数ヶ月で「研修が少なく、

長時間労働ばかりさせられる」という不満の声がタイ人研修生の中からおき、帰国希

望者がでてきているようです。今後も、この問題に注目しながら農業研修生の人権擁

護のために取り組んでいきます。

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