コムスタカ―外国人と共に生きる会

入管政策について


2004年9月8日大村入国管理センターの施設見学と意見交換会報告
中島真一郎
2004年9月23日

はじめに

2004年にはいり、長崎県大村市にある『法務省入国者収容所大村入国管理センター』(以下、大村入国管理センター)に収容中の外国人から相談が、「移住労働者と共に生きるネットワーク九州」(以下、ネットワーク九州)のいくつかの構成団体に寄せられました。また、美野島司牧センターには、大村入国管理センターの職員から、「収容されている外国人のために協力してもらえないか」という相談の電話がありました。大村入国管理センターの現状と要望を知るため、ネットワーク九州の事務局会議で相談し、大村入国管理センターに施設の見学と意見交換会を申し込みことにしました。
2004年7月下旬に美野島司牧センターの神父やメンバーらが大村にいき、カトリックの長崎教区の神父や信徒にも協力要請し、大村入国管理センターが収容されている外国人と面会した折に、大村入国管理センターの総務課長に打診したところ、前向きに応じるとの反応がありました。
大村入国管理センターの総務課長は、2004年4月より赴任したばかりでしたが、ネットワーク九州が福岡入管との意見交換会を行っていることを知っており、今回の申し入れにも好意的な反応とのことでした。8月11日の事務局会議で日程を9月8日(水)午後1時として申し込むことを決定し、大村入国管理センターに連絡したところ、了解が取れました。そして、入国管理センターの要請に従い、ネットワーク九州事務局から8月23日までに参加希望者の名簿を大村入国管理センターへ提出しました。

2、 2004年9月8日 大村入国管理センターの施設見学と意見交換会

(1)概要報告

9月8日は、福岡県内から12名、熊本県内から3名、長崎県内1名の計16名が参加しました。午後1時より、大村入国管理センター2階会議室で、総務課長、 警備課長、ら入管職員3名から入国管理局の5つの仕事(出入国管理、在留管理、退去強制、難民認定、外国人登録)と大村入国管理センターの役割の概要の説明を30分ほど受けました。その後大村入国管理センターの施設(1階、2階部分―――面会室、警備指令室。診療室、レントゲン室、学習室、カウンセリングルーム、学習室、検査室、屋外運動場など)の見学を約1時間しました。但し3,4階の被収容者のいる階は見せてもらえませんでした。)そして、2階会議室に戻って、大村入国管理センターの3名の職員との意見交換会を40分ほどして、午後3時すぎに終了となりました。その後、参加者は3組に別れて、収容されている外国人3人との面会(30分)をしました。
 私は、2002年8月下旬、福岡入管より摘発され、退去強制されようとしている元中国残留孤児の再婚した妻の子2家族7人のなかで唯一仮放免が認められず、2001年12月末から2003年9月中旬まで1年9ヶ月にわたって大村入国管理センターに収容されていた中国籍の男性の問題で、2002年8月下旬に北川れん子衆議院議員(当時)とその秘書の方に同席して、大村入国管理センターの施設の見学と所長ら入管職員との意見交換会をおこなったことがあります。(このときの報告は、コムスタカ―外国人と共に生きる会のホームページ『2002年8月29日 大村入国管理センターの視察と中国人Aさんの仮放免の要請』をご参照下さい。)私にとって、2年ぶりの大村入国管理センター訪問でしたが、国会議員との同席ではなく、ネットワーク九州という団体が申し入れた施設見学と意見交換会を大村入国管理センターが受け入れたこと自体、大きな時代の変化を感じました。今回は、NGOとしてのネットワーク九州と大村入国管理センターとの最初の意見交換会で、施設の見学と施設や処遇内容への質問が中心となりましたが、2年前と比べて大村入国管理センターの施設見学と意見交換会で感じた違いも含めて報告しておきます。今後、大村入国管理センターの長期収容者の問題などについて提言や申し入れを検討して、意見交換会を継続して行きたいと思います。

(2)、大村入国管理センターの仕事と役割の概要の説明と施設見学

(ア)大村入国管理センターの役割について、「入国管理局の5つの仕事(出入国管理、在留管理、退去強制、難民認定、外国人登録)のうち、大村入国管理センターはその一部を担っているに過ぎず、退去強制令書が発付され、退去強制されることが確定した外国人を、退去強制されるまでの期間中とどめておく一時的な留まりの場で、刑罰や更正のための矯正施設である刑務所とは異なる施設であること」が強調されました。
(イ)収容者の処遇については、「帰国するまでの間留めておく施設なので、逃亡などの保安上の支障がない限りできるだけ自由を与えている。各収容室には8−10人ほど入居して暮らし、食事も収容室でとるが、テレビを各収容室ごとに設置している。4つある各収容ブロックごとに日中は開放処遇を認め、娯楽室や図書室を設けている。アルコールは認めていないが、タバコは認めているし、清涼飲料水も自動販売機で自由に買える、電話も2台設置し、テレホンカードを購入して誰にでもかけることができる。運動は、屋外運動場で一日30分の運動が認められ、娯楽室では卓球用具を備えている。食事も、外国人の宗教・習慣・生活様式などに配慮して10種類ぐらい用意している。面会も、親族に限定することなく外国人が同意すれば誰とでも面会できる。」など、施設外にでられないことを除くと、施設内では「自由な処遇」がおこなわれていることが強調されました。
(ウ)入所者の処遇への不満や苦情について、「まず、直接担当の警備官へ苦情を申し立てることができるが、担当者に言いにくいときは、意見箱を設けてあり、そこに意見を書いて提出すると、現場の担当警備官にわからない形で、施設の次長に届けられ入所者の声を処遇行政に反映するようにしている。さらに、施設関係者に知られたくない場合には、法務大臣への不服申立制度があることも、多言語の説明書を作成して入所者に説明している。(実際、護送されてきた入所者が最初に入る部屋となる1階の入所者検査室には、英語版お不服申し立て制度の説明書が掲示してありました)
(エ)医療面の処遇について、「医療職として、内科の医師1名、看護士2名、薬剤師1名の計4名が常勤、歯科医師が1週間に2日、臨床心理士が毎月2回(平日の午後4時間ほど)、希望する被収容者に対してカウンセリングをおこなっている。また、必要に応じて市内の市立病院などへ通院・入院させるなど被収容者の健康管理には十分な配慮している」ことが強調されました。
(オ)大村入国管理センターの収容定員は800名ですが、現時点での収容者数約300人(うち女性が100名)という説明でした。また、国籍別では中国籍が大半であるということでした。2年前の2002年8月下旬の時点が112名でしたから、この2年間で大幅に増えていることがわかりました。
その要因として、「不法滞在者」の摘発が強化されて「過剰収容」となっている東日本入国管理センターから大村入国管理センターへ護送されてくる外国人が半分以上を占めているということです。
「不法滞在者」との摘発強化に伴う東日本入国管理センターの「過剰収容」の解消のための受け入れが、九州内の福岡入管の収容施設からの移送を上回っており、東日本入国管理センターの補完施設に大村入国管理センターの役割が変化していることが伺えました。
(カ)大村入国管理センターの職員は、他の入国管理センターの応援のために派遣されており、職員数は減っているとのことでした。(2002年8月の説明では職員数112名)
また、法務省のパンフレット「出入国管理」(2004年版)によると、2004年度入管職員は2833人(入国審査官 1343人、入国警備官1183人、法務事務官、法務技官 307人)となっており、2002年度の2663人と比べてこの2年間で170名増員されています。行政改革により国家公務員が減らされているなかで、入国管理局職員の増員がおこなわれています。但し、増員された入管職員は東京入管や名古屋入管へ配属され、大村入国管理センターの職員は増員されておらず、今後も期待できないとのことでした。
(キ)大村入国管理センターの被収容者の変遷 施設見学中に、学習室の黒板に以下のような説明が書いてありました。
「1、出戻り韓国朝鮮人(働き盛りの男性)、2、アジアからの出稼ぎ目的の女性(いわゆるジャパユキさん)3、ビザな免除協定国からの男性が急増(イラン・パキスタン・バングラデッシュ)、4 アジア諸国留学生受け入れに伴う若年層の不法就労の急増、 5 ベトナム難民―カモフラージュ案件の急増 6、中国からの不法入国・不法残留の急増」
これに加えて、現在は7番目として、「東日本入国管理センターから移送されてくる不法滞在者の急増」を追加するとより実情を示すと思います。(注:大村入国管理センターは、1950年の開設から1989年までは、被収容者の国籍別では大半が韓国・朝鮮籍でしたが、1990年以降は、中国籍が大半を占めるように変化しています。 表1、表2参照)大村入国管理センターの主な被収容者の変遷の歴史を端的に示していて、興味深い記述でした。

3、大村入国管理センターの意見交換会の報告

施設見学を終え、2階会議室でネットワーク九州からの参加者16名と入国管理センターの総務課長や警備課長ら3名との意見交換会をおこないました。 大村入国管理センターに収容されている外国人の平均収容期間は、 3週間程度との説明でした。これは、退去強制令書が発付されて退去強制されることが確定しているが、出身国などに帰国するために必要なパスポートを持たない外国人が主に収容されているため、パスポートの再発行や渡航証をその国の領事館などに発行してもらう期間中(2週間前後)大村入国管理センターに収容されていることによるものです。
しかし、その一方で、長期収容を想定していない施設である大村入国管理センターでの収容が3ヶ月以上の長期化する被収容者が存在しています。その要因として@国籍不明の場合や、出身国が受け入れを拒否している場合(ベトナム難民の2世・3世、中国残留日本人の2世、3世、その他)A日本に婚約者、配偶者、子どもなど家族がいる、難民認定申請中、訴訟係争中などを理由に退去強制に応じよとせず、被収容者が帰国を拒否している場合などがあります。
今回の施設見学や入国管理センターの説明では、私たちネットワーク九州が、被収容者の人権問題に取り組む団体であることを意識していたと思われますが、大村入国管理センターからは、「退去強制されるまでの期間いてもらう施設」なので、被収容者の人権に十分配慮しており、逃亡のおそれがない限り原則自由な処遇をおこなっていることが強調されました。しかし、そもそも収容していること自体「人身の自由」の侵害であり、収容施設で午後5時から朝9時まで8−10人ほどの多人数で一緒に収容されている状況は自由の束縛です。とりわけ、いつ帰国できるのか、あるいは施設からいつ出られるのか不明な状態で長期の収容がなされている外国人にとって、「不定期刑」を受けているようなものであり深刻な人権侵害となります。以下、意見交換会でネットワーク九州の参加者からの質問と入国管理センターからの回答の要旨を紹介しておきます。

質問「被収容者の自殺未遂( 自損行為)は、おきていませんか、」

回答「近年、大村入国管理センターでは起こっていない」(注:2002年8月のときは、所長が、数例あったことを認めていました。)

質問「被収容者一人当たり、1日いくらぐらいの経費がかかるのですか」

回答 「約2000円ほどかかります」

質問 「被収容者一人につき毎月6万円、1年間に72万円の税金が使われていることになり、長期収容するより国費で送還費用を負担して早期送還をした方が税金の負担は少なくすむと思われますが、国費による送還の決定に時間がかかり、決定が容易におこなわれないのは、どうしてですか。」

回答 「安易に国費送還を認めると、不法入国や不法残留など違法行為を助長しかねないこと、法務省として、毎年国費送還の予算枠があり、そのなかで入国管理センターの要望を考慮して優先度の高いものから国費送還をおこなっているが、予算枠の制限があるためです」

質問 「仮放免は入国管理センターの所長が決定できると聞いていますが、どのような場合に認められるのですか。」

回答 「仮放免は、感染するおそれのある病気や収容が長期化した場合などに認めている。」(注:2002年8月のときは、病気の場合以外仮放免を許可したことはないとの回答でしたが、2003年9月に元中国残留孤児の再婚した妻の娘の夫が1年9ヶ月の収容を経て、ようやく仮放免が認められていますので、収容の長期化を始めて理由に挙げていたことが印象的でした。)

質問「長期収容されている外国人の中には、帰国を希望しながら帰国費用を準備できない場合が多いのですか、」

回答 「帰国するための旅費を用意できない外国人については、帰国の意思がある場合には、本国の親族に電話したり、日本国内の友人に連絡して工面しているので、それほど問題ではない」

質問  「被収容者がNGOなどに相談したいときに、入管からネットワーク九州の連絡先を教えるなど紹介することはできませんか。」

回答 「弁護士に相談したいという被収容者には、長崎県弁護士会の電話番号を教えることはありますが、現在の入管の立場では、NGOの皆さんの連絡先などを被収容者に教えることはできません。 ただし、被収容者自身が皆さんの存在を教えたり、電話で相談することはできます。」

質問 「入国管理センターから、NGOである私たちに期待されたり、何か私たちにできることはありますか、」

回答 「特に入管側からはありませんが、ぜひこれまでどおりの活動を続けてください。」

4、大村入国管理センターにおける長期収容者問題

大村入国管理センターは、退去強制令書が発付された外国人が入所している施設で、平均入所期間は3週間程度(注:2002年8月の説明では、31日でした)ということです。
大村入国管理センターの被収容者については、以下の(A)、(B)、(C)の3つに大別できます。
(A) 帰国意思があるがパスポートなど帰国できるための証明書がない場合
@パスポートや渡航書が、その国の大使館・領事館などから発行されるまでの2−3週間期間中の収容で、大村入国管理センターにとって基本的な収容対象者となっています。
A 帰国意思があるが、帰国のための旅費が用意できない
(B)帰国意思がない場合
  日本に、婚約者・配偶者・子どもなどがいるため、あるいは難民認定申請中や裁判係争中などを理由に日本への在留を希望し、帰国しようとしない場合です。
(c)出身国の政府が受け入れ拒否、あるいは、国籍不明のため受け入れ国がない場合
    ベトナム難民の家族、中国残留日本人の家族や無国籍の場合など
そして、長期収容者となっている(B)と(C)の場合の解決をどのようにしていくかが今後の緊急の課題です。以下は、現段階での私の意見です。
(B)の場合については、入国管理センター所長の権限で決定できる仮放免制度を柔軟に運用・活用して、長期の収容を原則としておこなわないように改めるべきではないかと思います。 また、法務省としても、退去強制令書発付後は極めてまれなケース以外再審を認めない現在までの運用を改め、例えば、退去強制令書発付後に婚姻届が出されたケースでの再審を認めるなど、在留特別許可を認めるなど在留資格を付与していく方向に入管行政を改めていく必要があります。C)についても、本人の責任ではないので、早期に仮放免を認め、再審を認めて在留資格を与えて、送還しない運用に変えていくべきです。また、(B)と(C)の場合に今後仮放免制度がより柔軟に運用された場合に、施設外に居住する身元保証人の確保や保証金の問題をどうするかも課題となります。

表1   1990年−2003年 大村入国管理センター国籍別入所者数

出典『平成14年8月 業務概況書  入国者収容所 大村入国管理センター』及び   『第40〜第42(平成13年、14年、15年度) 出入国管理統計年報』(法務大臣官房司法法制調査会)より作成
注)― (不明----0人か、人数が少ないため、その他に分類されて国籍別の数が不明

表2 最近5年間(1999年―2003年)の収容所別入所人員の変遷

出典 1999年版(平成11年)『第38出入国管理統計年報』(法務大臣官房司法法制調査会編)〜2003年版(平成15年)『第43出入国管理統計年報』より作成


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