コムスタカ―外国人と共に生きる会

入管政策について


2004年通常国会 改定入管難民認定法の問題点の検証(その3)
V 出国命令制度の創設問題
W 上陸拒否期間の5年から10年の延長問題
―第159国会 参議院及び衆議院法務委員会議事録をよんで

中島真一郎
2005年2月21日

2004年通常国会(第159回国会)の法務委員会での入管法改定問題の審議に際して、以下の(1)質問趣旨とデータ請求は、移住労働者と連帯する全国ネットワーク事務局を通じて、野党議員への質問項目(質問趣旨、参考資料)案として私が提案したものです。2004年6月成立した改定出入国管理及び難民認定法の改正項目に沿って、改めて問題点を検証していくために、(1)質問趣旨とデータ請求、(2)私のコメント、(3)国会の法務委員会での質疑と政府の答弁の順で紹介しておきます。 

V 出国命令制度の創設問題

(1)質問趣旨

出国命令制度(自ら出頭した不法滞在者で一定の要件に該当するものについて簡易な手続きで迅速に出国させる制度を設ける。出国命令による出国者への上陸拒否期間は、5年間から1年間に短縮する)の目的と効果の根拠について明らかする

現行上陸拒否期間5年間から、5年を原則として出国命令制度適用者への1年への短縮やリピーターなど悪質者への10年の延長に改められますが、退去強制された経歴をもつものが、同一氏名で再入国申請してもビザを得て再入国できるケースはまれであり、ほとんど認められていません。入管は、その数を明らかにしていませんが、上陸拒否期間は、過去に退去強制されて同一氏名で再入国の申請をするものにしか適用できず、「偽名」への入国者へは効果がないことを明らかにする。

データ公表要求

1999年から2003年までの最近5年間の退去強制者に占める自主出頭者、その他の機関からの引渡しによる者、入管による摘発者(警察との合同を含む)の内訳の人数を及び自主出頭者のうち収容していた人数の公表を求めます。実は、1999年の改定入管法案の審議の際に、1993年から1998年までの自主出頭者、当局(入管、警察と合同の場合を含む)の摘発数、その他の機関から引き渡し数を質問し、以下のように公表させています。同様なデータを1999年から2003年までの分を公表させておくことは、出国命令の対象者の推移や人数を知る上で必要と思われます。

表1 1999年入管法改定法案国会での審議中に、国会議員に対する法務省よりの回答

表2 違反事件引渡し・引継ぎ件数(身柄の態様別)

(2)コメント

入管の改定を目的は、「平成11年に入管法を改正して、上陸拒否期間をそれまでの一律1年から5年に引き上げましたが、その際、約4万2千人もの大量の出頭申告者がございました。」という増田入国管理局長の答弁でも明らかのように、自主出頭者の増加により25万人と推定される「不法滞在者」を減少させることにある。自主出頭者を増加させる手段が出国命令による帰国したものへ1年間の上陸拒否期間の短縮である。しかし、この改定も1年後に再入国できるという期待が満たされる場合には実効性を持つかもしれないが、実際1年後上陸拒否事由者でなくなることを意味するに過ぎず、1年後に合法的なビザを得て再入国できた者は極めて少ないのが実情です。これは、日本が就労を目的としたビザはむろん、「短期滞在者」のビザもほとんど認めていないこと、そして過去入管法違反の履歴がある者に対しては容易にビザを発給しないことによります。

1999年「上陸拒否期間が1年から5年に引き上げられる」改定で、大量の自主出頭者が現れたのは「改定前に帰国すれば1年後に再入国できる」という「デマ」を信じて出頭した者が多かったためです。「不法滞在者」の定住化が進み、2001年以降自主出頭者の大幅減少がおきている現在では、一部に同様なデマに惑わされる者以外、新規の自主出頭者の増加をこの改定により期待できません。事実、「2000年1月には、1999年1月の2.4倍の約8000人の不法滞在の外国人が、駆け込み出国」(2000年2月17日 熊本日日新聞  夕刊)のときとに比べて、今回の改定による出国者は、2004年11月2148人(前年の2003年11月1426人と比べて722人50.6%増加)、12月2005人(前年の2003年12月1518人と比べて、487人 32.1%増加)とわずかな増加にとどまっています。(出典 2005年1月法務省入国管理局  「出国命令制度実施前後における帰国希望者の出頭状況について」より)

W 上陸拒否期間の5年から10年の延長問題

(1)質問趣旨

 上陸拒否期間の5年から10年延長の目的と効果について、

今回の改定により、上陸拒否期間5年から10年の延長の効果は、同一の氏名で再上陸を申請するものにしか適用されず、「偽造」旅券などを使用した再上陸者には効果がないこと、脅しの意味しかないことを明らかにする。その一方で、本来、人道的な配慮による早期の再上陸が上陸特別許可により認められるべき日本人等との配偶者や子どもがいる場合の外国人に適用されるおそれがあることを明らかにします。

データ公表要求

@リピーターの数について 退去強制後日本人との結婚や日本人の子の養育などの人道的配慮理由以外で同じ名前で再上陸が認められていた外国人の数について1999年改定から2003年の最近5年間を提出させる。

参考資料

 1999年の入管法改定の際の質問と法務省の回答へのコメントです。

「再上陸禁止期間の5年延長」の理由として、法務省は、「退去強制後1年経過して、再上陸し再び『オーバーステイ』して退去強制されるリピーターが増大している」と説明し、マスコミもこの理由を受け売りして報道してきました。入管法の改訂前には、「退去強制された移住労働者は、1年経過すれば再び容易に再上陸できている」かのような誤った理解により、この改定が押し進められました。しかし、昨年の国会審議のなかでも退去強制後1年を経過し、同一の身分事項(同じ名前で)で適法な在留資格を得て再上陸できる者とは、どのような人達で、年間何人ぐらいいるのかということが、当初あきらかになりませんでした。昨年の国会審議のなかでの議員の追求により、リピーターの数のデータを、法務省は1998年6月の1ヶ月間のサンプル調査により、過去に退去強制歴があった者472名の内の174名が1年経過して同一身分事項で再上陸後に再び『オーバーステイ』となったことをようやく明らかにしました。(472-174=294名は、1年以内の再上陸者か、「不法入国者」と思われるので、同一身分事項による1年経過後のリピーターは約3分の1)しかし、1998年の過去退去強制歴のある退去強制者数4535人の約3分1が同一身分事項のリピーターであると推計すれば約1500人程度にしかなりません。しかも、この国籍別や在留資格別の内訳は明らかになりませんでした。 「オーバーステイ」で退去強制された移住労働者が、同一の身分事項で1年経過後に在留資格を申請するとき、過去の退去強制歴が入管や外務省で必ずチェックされ、そして、日本で認められていない労働目的の入国の疑いを抱かれ、容易に適法な在留資格が得られませんので、退去強制後1年を経過しても適法な在留資格で再上陸することは事実上困難です。それゆえ「偽造ビザ」や「密入国」という方法で再入国をはかる移住労働者が後を絶たないのです。そして、途上国の人の場合、過去日本への入国歴のない人でも、労働目的と疑われて新規のビザが容易にでないのが運用の実態です。 このような実情を踏まえると、退去強制者の内から「再上陸禁止期間の5年延長」により影響を受けるのは、上陸拒否事由に該当せず、行政処分としての退去強制をされた移住労働者のうち、退去強制後1年を経過し、同一の身分事項(同じ名前で)で適法な在留資格を得て再上陸できた者が、今回の改正が施行された2月18日以降退去強制された移住労働者は、5年以上経過しないと再上陸できなくなります。このような移住労働者はあまりおおくいませんし、どのような基準で認められているのか不明です。問題は、改定入管法の施行前であろうと施行後であろうと、「オーバーステイ」の移住労働者で退去強制された者は、1年であろうと5年経過しようと日本で認めていない労働目的での入国申請と疑われれれば、在留資格は得られませんので、改定入管法の施行前に帰国する意味はありません。むしろ、日本人等との婚姻や日本人との実子を養育している場合(新基準として外国籍の家族でも学齢に達した子どもがいる場合)には在留特別許可が認められますので、帰国せずに合法化をめざすことが定住化や合法化の目的にかなうことになります。

A 1999年から2003年までの上陸特別許可を得て再上陸した外国人の内訳別 4号(1年以上の懲役)、5号(麻薬関連)、7号(売春関連)、9号(退去後禁止期間内)の人数を明らかにさせる。

参考資料1
 国会での法務省の答弁 5年上陸拒否事由者への上陸特別許可数の推移

参考資料2
1998年の法務省の回答 

1999年の入管法改定に関する国会審議のなかで、入管法第5条の上陸拒否事由該当者の最近3年間での在留資格認定証明書交付数。(法務省が国会議員よりの質問に回答した)1996年 24件  1997年42件  1998年53件(うち1年以内6件)であることがあきらかになっています。交付事由は、「本邦に居住する等身分関係、入国目的等から特別に上陸を許可すべき事情があると認められたことによる。」となっています。

参考資料3
上陸特別許可の事由別統計 (1996〜1998)

参考資料4
過去5年間の上陸特別許可の事由別統計(1999〜2002)

(3) 国会の法務委員会での質疑と答弁

資料1

 2004年4月13日 第159回通常国会 参議院法務委員会審議録 第10号より

○千葉景子君 次に、出国命令制度についても伺っておきたいというふうに思います。

 これは、先ほどから話になりますように、一つは、自ら出頭することによって、また日本への入国を逆に言えばしやすくする、言わばあめとむちのあめのような部分になるのかというふうに思いますけれども、この要件として、速やかに本邦から出国することが確実と見込まれる、こういう要件が出国命令制度には付けられております。これも非常に抽象的な文言でございまして、こういう要件が付いているとすると、これ自ら出頭するということは、不法滞在であるということを名のってリスクを負って出頭するということになるわけですね。本当にこれで、まあ救済ということはないんですけれども、一定の早い入国が保障されるような立場をもらえるのか。あるいは、ひょっとしたらそうではなくて、強制収容されて退去強制手続に乗せられてとんでもないことになってしまうのではないか。この辺り、本当にリスクを負って出頭してくるという人が考えられるのだろうか。

 それから、先ほどこれも参考人等からも指摘がありましたけれども、1年という期間で入国ができるということになりましたけれども、これ必ずしも1年、もうすぐに入国が認められると保障されているわけではなく、1年間はちょっと待ってよと、それ以上どうなるかは分かりませんと、こういうことでもあるわけですので、この出国命令制度、一見は先ほど指摘あったアムネスティー制度に類似するような感もしますけれども、とてもそういう安定した地位とかそれを与えるようなものではなく、むしろこれに乗らない人に関しては、せっかくこういう道を残してやっているのにこれに乗ってこないんだからそういうのは厳しくしてやれと、こういうことでこれまで以上に収容手続が厳格になったり濫用されたり、こういうことになりかねないのではないかと、こういう感じもいたします。

 その点について、そういうことではないのだとおっしゃり切れるのか、あるいは本当に効果たるやあるとお考えになっておられるのか、御認識を聞かせていただきたいと思います。

○政府参考人(増田暢也君) まず、速やかに本邦から出国することが確実と見込まれることについての意味、あるいはなぜこういう要件にしたかということを申し上げますと、この確実と見込まれることのためには、その本人が帰国のために必要な渡航文書、パスポートなどですね、それを持っている、あるいは帰国の費用、また交通手段等が確保されると。したがって、近いうちに間違いなくもう出て、日本から出てもらえるということ、それを要件としたわけで、これは出国命令制度が、そもそも本人が名のり出てきて、その後速やかに、速やかというのは法律上十五日以内に出国命令を出す、十五日以内に出国しなさいという命令を出すことになっていますから、十五日以内に出てもらえるような条件を具備している人が対象になるということで、確実に出国が見込まれるということで、旅券を持っていることとか帰国費用を持っていることなどを求めたものでございます。

 こういう要件を満たす方については、収容されることなく合法滞在者として出国してもらうことになります。しかも、御指摘のとおり、そういう人については、今後、上陸拒否期間を今の五年から一年に短縮すると。このようにいろいろなメリットを与えようという制度でございます。

 仮に、当局の摘発によって退去強制を、退去強制手続を取られた場合には身柄が収容所などに収容されますし、その場合の上陸拒否期間は五年、リピーターだったら、今後法改正が実現すれば十年というふうになります。それから、多額の罰金刑を科せられる可能性なども出てきます。そういった点でも、この出国命令制度は自ら出頭する人に対してかなりのメリットを与えるものと考えております。

 実態といたしましても、かつて平成11年に入管法を改正して、上陸拒否期間をそれまでの一律1年から5年に引き上げましたが、その際、約四万二千人もの大量の出頭申告者がございました。ところが、その後、その改正法が施行された後は、出頭申告者、特に帰国希望の出頭申告者が大幅に減少しております。

 こういったことからも、やはり上陸拒否期間を長くする、あるいは短くするということは、出頭申告者の動向を大きく左右する要素であると考えております。今回のように、五年を一年にしますよという、そういう短縮のメリットは、出頭申告しやすい環境を整えることに結び付くものと考えております。

 それから、この制度を設けることによってかえって例えば出てこない人について現状より厳しくなるようなことはないのかというお尋ねでしたけれども、出国命令制度はその出頭した本人についてメリットを与える、退去強制手続の例外としてメリットを与えると、こういう制度であって、この出国命令の対象とならない方については、これは現行法の退去強制手続が今と同様に取られるということになりますので、出国命令制度が設けられることによってこれに乗らない不法滞在者の取扱いが今よりも厳しくなるということはございません。

資料 2 

2004年 5 月 26 日第159回通常国会衆議院法務員会 議事録第30号

 ○辻委員  そこで、罰則の強化とか出国命令とかいう制度を新設したりということで犯罪の抑止を図ろうとされている点が、本当に抑止力のある、意味のある施策であるのかという点について伺いたいと思います。 まず、出国命令ということで、24条の2というものが提案されておりますが、これで本人の帰責事由のない場合にという記載がありますが、この不帰責事由の場合というのは、具体的にはどのような事例を指しておられるんでしょうか。

○増田政府参考人 出国命令を受けた人については、指定された出国期限までに自発的に日本から出ていっていただく、こういう制度になったわけですが、もしそこの期限を経過して日本にいるとなったら、これは退去強制事由ということで、今度は強制退去ということになります。しかし、やむを得ない事情でどうしてもその期限までに出られなかったんだという場合、これについては退去強制するのは酷である、こういうことから、本人の責めに帰すことができない事由によって出国期限内に出国できなかった場合には、これは出国期限の延長を認めることにしたものでございます。

 本人の責めに帰すことのできない事由としては、例えば、天候不良で数少ない飛行機が飛ばなかった、次に飛ぶまで待っていたらその期限を過ぎてしまうような場合、こういったことが考えられますし、あるいは病気であるとか不慮の事故に遭った、そのためにやむを得ずその期限内に出国できなかったような場合が考えられます。

○辻委員 帰国費用がないために出頭もできない、帰国費用がないためにホームレス化してしまう人たちも少なからずいると思いますが、このような場合に、出頭すれば出国命令対象者として取り扱われることになるんですか。

○増田政府参考人 お尋ねのような人については、出国命令の対象とはなりません。これはあくまでも、みずから出頭してきて、自分の金でさっさと帰りますという人が対象となるものですから、ホームレスになってお金のないような人については、みずから出頭してきてもそれは出国命令の対象となりませんので退去強制ということになりますが、その場合でも、それは出てきていただいたら、もうそれで国の費用を使ってでもさっさとお帰りいただくということになると思います。 ○辻委員 この出国命令の制度が犯罪の抑止にプラスになるんだという位置づけをされておりますけれども、これはどういう理由でそのように言えるとお考えなんですか。

○増田政府参考人 出国命令制度と申しますのは、一定の要件に該当する不法滞在者について、身柄を収容することなく、合法滞在者として出国させることを可能とする制度でございます。そして、この出国命令で出国した人の上陸拒否期間は、これまでの五年間ではなくて一年間に短縮する、このように、出頭申告者に多大なメリットをもたらす制度でございます。

 他方、当局の摘発強化等で退去強制手続をとられた場合には、身柄は原則として収容されますし、本国に強制送還され、上陸拒否も5年、リピーターであれば10年となるわけで、しかも、警察等に検挙されて刑事手続をとられた場合には、多額の罰金刑を科せられる可能性もございます。  このようなことから考えまして、出国命令の対象者にこのように有利なインセンティブを与えることによって自発的に出ていってもらう、そういう人をどんどんふやすことによって不法滞在者を減らし、そのことによって治安回復の一助になるのではないかと期待しているところでございます。

○辻委員 では、実際、1年後にそれで再入国されるような例が果たしてどれぐらいあるのか。そういう期待感を持てるような現状でなければ、1年後の再入国を期待して自主的に出頭してくる、出国してくるということはなかなかあり得ないのではないかというふうに思います。

 ですから、果たして本当にこの制度が犯罪の抑止にプラスになる制度なのかということは、一概に言えない。運用の実態を待って検討しなければいけない問題なのかなというふうに思う点を指摘しておきます。

 
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