コムスタカ―外国人と共に生きる会

入管政策について


2004年通常国会 改定入管難民認定法の問題点の検証(その2)
U「不法滞在」の罰金を30万円から300万円への引き上げ
―第159国会 参議院及び衆議院法務委員会議事録をよんで

中島真一郎
2005年2月21日

2004年通常国会(第159回国会)の法務委員会での入管法改定問題の審議に際して、以下の(1)質問趣旨とデータ請求は、移住労働者と連帯する全国ネットワーク事務局を通じて、野党議員への質問項目(質問趣旨、参考資料)案として私が提案したものです。2004年6月成立した改定出入国管理及び難民認定法の改正項目に沿って、改めて問題点を検証していくために、(1)質問趣旨とデータ請求、(2)私のコメント、(3)国会の法務委員会での質疑と政府の答弁の順で紹介しておきます。 

1、「不法滞在」の罰金を30万円から300万円へ引き上げ問題について

(1)質問趣旨

質問及びデータ公表要求

 過去10年間 入管法違反で起訴された者のうち、罰金が科せられた人数と罰金額を、また、懲役刑でなく、罰金刑が科せられる場合はどのような基準でおこなわれるのかについて明らかにさせる。罰金刑がほとんど運用では課されておらず、単なる脅し以上の意味がないことを明らかにさせてほしい。

参考資料

2002年版犯罪白書によると入管法違反来日外国人被疑事件検察庁終局処理人員10326人、起訴された者6944人(起訴率67.2%)、地裁・家裁終局処理人員5737人のうち有期刑5726人(うち執行猶予付き5522人)、罰金.過料10人。

(2)コメント

今回の改訂による罰金刑の引き上げは、入管行政の問題ではなく、検察官の起訴後の刑事裁判の罰則に関する司法機関の運用の問題となります。これまでの運用実態は、入管法違反で起訴された者に罰金刑が適用されているのは、2002年約1万人のうち10人しかいないことです。なぜ、罰金刑の適用が少ないかというと、入管法違反の来日外国人被疑事件、検察庁終局処理人員10326人、起訴された者6944人(起訴率約68%)の多くが、検察官から懲役を求刑されて、有期刑5726人(うち執行猶予付き5522人)を課されているためです。

以下の資料3 の辻衆議院議員が指摘しているように、罰金額が30万円以下と低いために「不法滞在」を減らせなかったという立法事実もなければ、今後罰金刑の引き上げによる政策効果も期待できません。入管が狙っているのは、逮捕されて起訴された場合に、「300万円以下の罰金がとられる場合もあるかもしれない」という外国人に対する威嚇による抑止効果であることが明らかになっています。

むしろ、改定入管法の運用で影響が大きいと注目されるのは、警察が入管法違反で摘発した外国人を入管法第65条を適用して、司法手続きに付さないで入管へ引き渡し、退去強制する者を増加させようとしていることです。入管法違反容疑で検挙した外国人の大半を検察に送致し、起訴して刑事裁判にかけることで、外国人の拘留・拘置期間が長期化し、留置所や拘置所などの収容施設が過剰収容や施設の不足問題が生じてきたための対応措置です。入管法違反で警察に検挙された外国人(2002年6740人)のうち入管法65条で入管へ引き渡された者1100人(16%)でしたから、今後入管法第65条の適用を受けて、裁判手続きにかけられず警察から入管へ引き渡され、速やかに退去強制される外国人が増加していくことを意味しています。このことは、法制や政策レベルの入管法違反者の刑事罰の強化や取り締りの強化政策の破綻を示しています。

(3)国会の法務委員会での質疑と答弁

資料1

 (2004年4月13日 第159回国会参議院法務委員会議事録 )  第10号

○国務大臣(野沢太三君) 今回の改正で、まずやっぱり私どもが心掛けますのは、現在いる二十五万人に対してどのように対応をしたらいいかと。そして、その上で正しい手続と正しい在留の資格その他が条件として満たされた段階で、さらに将来の問題として大勢の外国のお客様をお迎えしたり、あるいは資格のある技術者を受け入れたりという意味での長期的ないわゆる在留の外国人の皆様、将来の日本の人口政策、それらに絡む問題を設計せねばならない。その前提として、現段階でやはりこれまでのツケがたまっているかと思うんですが、これについてはいったんここできれいにしてから取り掛からなければならないんじゃないかと、こういう思いで取り組んでおるわけでございます。

 今回のこの罰金の引上げあるいは在留資格の取消し制度の新設、更には出国命令制度の新設等のこれらの政策を併せ行う中で、相当な方々がやはり自分の置かれている立場を考えていただきまして、自発的なやはり帰国であるとか、あるいは在留資格の見直し、変更についてであるとか、先ほど角田議員からも御指摘のありましたように、特別在留の更なる適用申請が出てくるとか、いろんな形で何としても目標である半減という政策の実現を図っていかなければならない。

 そして、その先にさらに、じゃ日本と各外国、特に東南アジア、近い近国でございますが、隣の国の皆さんとの共存の問題、共生の問題についての展望を開いていきたいなと、こう考えておるところでございます。

 半減は十分やれるし、またやらなければならないと考えております。

○千葉景子君 大臣もなかなかおつらい御答弁かなと思いますけれども、今、やらなければならないし、やれるというお言葉がございました。是非それは五年間で検証をさせていただかなければいけないというふうに思いますし、なかなか難しい問題。これは五年たたずとも、本当にこれが一年一年効果が上がるものか、あるいはむしろそうではない、弊害なり懸念がむしろ増大をするのか、その辺りは今日結論は出せませんけれども、節目節目で是非国会での検証なども進めていかなければいけないものだと指摘をしておきたいというふうに思います。

 今回、その制度設計の中で幾つか柱があるわけですけれども、まず罰金の引上げ。これまで罰金刑罰の制度がありました。しかし、もう刑罰をもって不法滞在を処罰をしているというのはそう多いものではないと私は認識をいたしております。これまでも余りこれが、罰則の制度が効果があったとか、適用されたというものでもない。今度これをわざわざまた引き上げるわけですけれども、この効果たるやどう考えておられるのでしょうか。単なる何か、あっ、罰金取られて大変だなという、そういう脅かしのような、こけおどしのようなことになってしまうんではないか、結果的にはですね、そんな気がしてなりませんけれども、この効果たるやどう御認識をなさっておられますか。

○政府参考人(増田暢也君) 今回は不法滞在者に係る罰金額の上限を引き上げることといたしております。これは、当初から不法に入国あるいは上陸して不法に在留する人や、あるいはいわゆるリピーターなどの悪質な不法滞在者の多くが我が国で不法就労を行っていて多額の収益を得ているという実情にあることにかんがみまして、罰金刑を併科することによる経済的制裁をも加えることでこれら悪質な不法滞在行為の抑止効果をねらったものでございます。これにより、不法滞在者の発生の抑止と減少に結び付くものと考えております。

○千葉景子君 今、先ほど申し上げましたように、これまでも罰則はございます。しかし、それが抑止効果にもし額は違えどもなっているのであるとすれば、今のような逆に言えば事態には、実情には逆に言えばならないわけでして、この罰金の引上げがどの程度効果があるものなのか、私は大変疑問を感じております。

資料2

 2004年4月15日 第159回 参議院法務委員会議事録 第11号

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。

 三回目の審議になりました。今日はまず、入国管理の部分での刑事罰強化とその運用の問題をお尋ねをいたします。

 我々は、原則的には厳罰化には反対でありますが、今回の改正は、懲役はそのままで罰金刑のみ引き上げる、そして一方で出国命令制度で上陸拒否期間を短くするということが併せて行われております。

 そこで、前回改正で刑罰が付けられて以降の運用の問題についてなんですが、平成十四年で入管法違反で退去強制事由の対象になる人が約四万二千。これは基本的にはこの刑罰の対象になり得るわけですが、最高裁からもらった資料によりますと、そのうち入管法違反で有罪判決を受けたのが平成十四年で五千七百二十六人、うち実刑は百九十人、罰金が九人と、こう聞いております。そして、平成十五年でいいますと、有罪判決が七千四百七十一人、そのうち懲役、禁錮の実刑が二百七十三人、執行猶予が七千百九十五人、罰金刑は七人と、こう聞いております。この中には不法就労助長罪による日本人も若干は含むわけでありますが、平成十四年も十五年も実刑の率は三%から四%程度と、こういうことになっております。

 今示した数にありますように、入管法違反については、人道的立場での在留特別許可であったり、また退去強制ということを基本として、よほど悪質な者以外は刑罰を付けないという運用がされてきたと思います。

 そこで、まず法務省にお聞きをするわけですが、今度の改正で、これまで退去強制などで済んでいた人にまで刑罰が付くと、こういうことになってはならないと思うんですが、法務省としてのお考えはいかがでしょうか。

○政府参考人(増田暢也君) 今回、不法滞在者に係る罰金額の上限を引き上げることとしましたが、これは、我が国で不法に就労して経済的利得を得ることを目的として不法に本邦に入国、上陸する不法在留者やいわゆるリピーターなどについて、罰金刑の併科による経済的制裁をも加えて反対動機の形成を図り、これらの悪質な不法滞在行為を抑止することを目的とするものでございます。したがって、今回の罰金額の引上げは、例えば出国命令の対象となるような比較的悪質でない不法滞在者をターゲットにするものではございません。

 なお、お尋ねは刑事手続の運用について触れておられましたが、この刑事手続の運用は入管局としてはお答えできる立場にはございません。ただ、一般論としては、個々の事案の諸事情を勘案して罰金刑の適用がこれからも検討されるものと承知しておりまして、あえて申し上げれば、入国管理局としては、今回の改正の趣旨を踏まえて適用されることを期待しているものでございます。

○井上哲士君 そこで、警察の方の運用についてお聞きをするんですが、平成十四年、入管法違反による検挙数は幾らになっているでしょうか。

○政府参考人(米村敏朗君) お答えをいたします。

 平成十四年の御質問の来日外国人による入管法違反の検挙でありますけれども、件数七千九百九十件、人員にしまして六千七百四十人を送致しております。

○井上哲士君 入管法の六十五条では、この不法滞在者がほかの犯罪にかかわった疑いがない場合に限って裁判手続を経ずに入管局に身柄を引き渡せる特例がありますし、同じく、不起訴となった場合は六十四条で入管に引き渡すということになっていますが、平成十四年にこの六十五条、そして六十四条で入管に引き渡された数は幾らになっているでしょうか。

○政府参考人(増田暢也君) 平成十四年にこの入管法六十五条で引渡しを受けた数は約千百人でございます。法六十四条によって引渡しを受けたのは同じく約千百人となっております。

○井上哲士君 昨年の報道によりますと、警視庁は、それまでは不法滞在が一年半程度に及んだ外国人は送検をしてきたけれども、他の犯罪に関与している疑いがなければ、この六十五条を使って、原則として四十八時間以内に入管に引き渡すと、こういう報道もされております。

 警察としても、悪質な者以外は送致をせずに入管に送って刑事罰を与えないという運用がこの間されてきたと思うんですが、今度の改正によってもこういう運用については変わらないと、こういうことでよろしいでしょうか。

○政府参考人(米村敏朗君) お答えをいたします。

 警察といたしましては、今回の法改正の趣旨、これを十分踏まえつつ、不法滞在の外国人につきましては入管法六十五条、これを活用いたしていくことが望ましいというふうに考えております。

○井上哲士君 繰り返しになりますけれども、今回の改正趣旨が、悪質な者については刑罰を与えていく、そうでない者についてはよく状況を見て人道的な配慮もしていくと、こういう点は是非運用上も貫いていただきたいということを重ねて申し上げておきます。

資料3

第159国会 2004年5月26日衆議院法務委員会議事録 第30号 

○辻委員 それから、罰金刑の引き上げを、30万円を上限とするものを300万円までということが犯罪の抑止の効果があるんだ、こういう説明になっておりますけれども、これはどういう根拠に基づいてそのようにおっしゃっているのか、お答えください。

○増田政府参考人 今回の改正では、不法滞在者に対する罰金刑を大幅に強化するということといたしました。この罰金刑の大幅な引き上げなどの措置をとるとともに、他方では、先ほど申し上げましたような出国命令制度を設ける、こういったことなどを加えまして、不法滞在者の大幅な削減が期待できるものと考えておりまして、そのことによって治安の回復の一助になるのではないかと期待しているところでございます。

○辻委員 今のは質問にお答えいただいていないんですよね。何で罰金刑の引き上げが犯罪の抑止効果を持つというふうに考えられるのかということを伺っているんですよ。

2003年の犯罪白書を見ますと、入管法違反の来日外国人被疑事件、検察庁終局処理人員1万0326人、起訴された者6944人、うち、地裁、家裁終局処理人員5737人。その中で、有期刑が5726人、罰金、科料が10人。つまり、2003年犯罪白書によれば、1万0326人の検挙人員のうち、罰金、科料に処せられた者は10人なんですよ。

 だから、罰金刑を引き上げるということが犯罪数を減らす抑止効果があるというふうにお考えになっているのかもしれないけれども、2002年は、1万人のうち罰金刑に処せられたのは10人なんですよ。こ10人のために罰金刑を引き上げるということは、これは立法事実を欠いているんではないですか。お答えください。

○増田政府参考人 これまでの運用において、罰金刑がさほど活用されていなかったというのは事実だろうと思います。しかし、それはなぜかと考えたときに、やはり、今の実情に照らして、罰金30万円以下という刑罰が低過ぎて使いにくいのではないかということがあるのではないかと思うわけです。

 我が国で現に不法滞在している方の中には、前にも不法滞在したようなリピーターの人が多い。また、不法就労してお金を稼いで、またそれを地下銀行を通じて母国に送金しているような人も多い。結局、不法滞在者の多くは、我が国で不法に就労してお金を稼ぐことが目的となっていると思われますので、そうすると、やはりその人に対する効果的な抑止策としては、罰金刑を高くして、その抑止効果によって、もう日本にいてもどうせ罰金で取られて元が取れない、だったら帰ろうか、こういう効果を期待したいと思ったわけでございます。

 実際に、この法律改正ができた場合にどのような運用になるか。これはあくまでも捜査機関の問題でございますので、私の方から申し上げるのはいかがかと思いますけれども、私どもとしては、こういう経済的な制裁をも加えることで悪質な不法滞在行為の抑止が期待できると考えておりますので、こういった線に沿って運用されることを期待しているということでございます。

○辻委員 しかし、提案理由の冒頭で、外国人犯罪の深刻化に伴い、施策を講ずることは必要だというふうになっているわけですね。外国人犯罪の深刻化ということについては、中心的には凶悪犯罪の増大だということをおっしゃっていて、凶悪犯罪に対する処罰としては、罰金刑は通常予定されないわけですよ。

 ですから、それ以外の犯罪について、今、罰金刑が十件しかないんだけれども、もう少し、30万円の上限を3000万円にふやせば、罰金刑を選択する裁判官がふえるかもしれないという御回答ですけれども、それは非常に何か論証抜きの、とにかく、とりあえず罰金をふやしておけば、日本に来る目的が、ある程度お金をためようという目的であるんだから、それを奪われるということになって心理的な抑制効果が期待できるんだという、論理的にはわかりますけれども、実際、現実には罰金刑が少ない。そして、深刻化に対する対策としては、凶悪犯罪に対する対策として罰金刑の引き上げが必ずしも機能しない。

 そういう中で、あえてこの入管法の罰金刑だけを特別に引き上げるというのは、非常に特別扱いであるんです。そのことの持つ意味は、外国人に対する威嚇効果ですよ。外国人を威嚇するために罰金刑の引き上げがなされている、これが主要な目的ではないかというふうに私は見ざるを得ない。そのような外国人に対する威嚇をするという入管行政のあり方そのものが本質的に間違っているというふうに私は思います。

 そういう意味で、この罰金刑の引き上げということには、政策的な効果もないし、立法事実も欠如しているということにおいて、極めて問題があるということを指摘しておきたいと思います。


戻る