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中国残留孤児の再婚した妻の娘2家族7人の退去強制問題


中国残留孤児井上鶴嗣さんの再婚した妻の娘2家族7人の退去強制問題 報告  福岡高裁9月22日第2回口頭弁論開かれる。

中島真一郎
2003年9月22日

元中国残留孤児井上鶴嗣さんの再婚した妻の娘2家族7人の行政訴訟(被控訴人 法務大臣、福岡入国管理局長など)の第2回口頭弁論が、傍聴者30名あまりの参加をえて、2003年9月22日午後2時から福岡高裁501法廷で開かれました。控訴人(2家族7人)は、前回の第1回公判(7月14日)で石塚裁判長が指定した9月16日までに、「出入国管理行政と国際人権条約に関する意見書」(村上 正直教授 大阪大学大学院国際公共政策研究科)と、「中国残留孤児の家族受け入れに関する意見書」(庵谷 磐氏 中国帰国者問題同友会代表幹事)の二つの学者・専門家の意見書を提出していました。また、9月22日公判前に、国際人権条約についての主張と被控訴人の答弁書への反論を述べた準備書面(1)を提出していました。また、中国残留孤児問題の歴史性や特殊性を主張する準備書面(2)を作成・提出したいので、次回もう一回弁論期日を入れてほしいとの上申書と、求釈明書2(逃亡している2名のうち今年4月に入管に出頭した1名の退去強制の有無と、その供述調書のすべての提出を求める)を提出してありました。一方、被控訴人(法務大臣など)からは、控訴人の求釈明に対する回答を内容とする第1準備書面(A4 3枚  大阪入管での本件と同種のケースで在留特別許可が認められた理由について、「釈明するこはできないし、必要もない」との回答  下記に全文掲載)が提出されていました。今回の法廷から、 9月17日に1年10ヶ月ぶりに仮放免が許可され、入管施設から釈放された井上浩一(馬好平)さんも出廷し、控訴人7人全員が揃いました。石塚裁判長は、控訴人及び被控訴人の準備書面と証拠を確認し、控訴人の求釈明2については、「裁判所として釈明の必要は求めないが、被控訴人から任意で回答していただくのはかまわないので、被控訴人の側で検討してほしい」といいました。そのあとで、今後の進行について、「控訴人申請の証人のうち井上鶴嗣の証人調べの必要を認め、次回証人調べ行う」といいました。すかさず控訴人の代理人弁護士が、「控訴人の申請している他の証人は却下ですか」と質問したところ、石塚裁判長は、「他の申請されている証人については、留保です。まず、井上鶴嗣証人の証人調べが終わってからそのとき判断します」と述べました。控訴人代理人が要求した仮放免された井上浩一(馬好平)さんの意見陳述(10分)を次回に行いたいという申し入れは裁判所に受け入れられました。

そして、次回(第3回)の日程として、12月1日(月)午前10時30分から、冒頭に井上浩一(馬好平)さんの意見陳述(10分)、その後井上鶴嗣さんの証人調べ70分程度(控訴人主尋問 60分、 被控訴人反対尋問 10分)が決まりました。また、石塚裁判長は、控訴人及び被控訴人双方に、今後提出予定の書面や証拠の有無をきき、できるだけ次回12月1日の公判までに提出してほし旨を述べました。

この日の法廷の最大の焦点は、控訴人側が申請している証人(全部で9人 @ 学者・専門家 各1名の2名、 A 井上鶴嗣さん  B 井上鶴嗣さん実子3名 C 子どもたち4名の担任・日本語教師 2名 D 法務省の入国管理局長 1名 、 井上鶴嗣さん以外は、第1審で証言していない)の採用を裁判所が行い、次回以降から証人調べに入るかということでした。控訴審の争点は、大別すると次の「@入国経緯の違法性とその程度、A 家族としての実体があること、B日本で善良に暮らし、生活基盤があること、C 退去強制は家族を路頭に迷わせ、とりわけ子どもへの影響が大きく、人道に反すること、D中国残留孤児問題の歴史性と特殊性」の5点です。このうち、「A 家族としての実体があること、B日本で善良に暮らし、生活基盤があること」は、第1審判決でも認めており、中心的争点は「@入国経緯の違法性とその程度」への反論と、「D中国残留孤児問題の歴史性と特殊性」の立証となります。石塚裁判長は、次回に弁論期日をもう1回いれるという希望は受け入れませんでしたが、第1審の福岡地裁ですでに一度証言しているため採用が危惧されていましたが、控訴人が中国残留孤児の歴史性や特殊性を立証する上で不可欠としている井上鶴嗣さんの証人採用がまず決定したことは、大きな前進でした。

むろん、第2回口頭弁論終了後の報告集会のなかで、参加者から次回12月1日の井上鶴嗣さんの証人調べで終了し、結審となる可能性も考慮して、次回にできるだけ多くの傍聴者を結集していく必要性も訴えられました。次回の12月1日(月)午前10時30分からの井上鶴嗣さんの証人調べが福岡高裁での控訴審の戦いでの大きな山場となります。

多くの皆さんのこの裁判への関心と支援をお願いします。

参考資料

被控訴人 第一準備書面 平成15年9月16日

被控訴人は、平成15年7月15日付け求釈明において控訴人らが釈明を求める事項に対し、以下のとおり回答のべる。なお、略称などについては、従前の例による。

1、控訴人らは、上記求釈明書において、

 「大阪入国管理局」が「2003年(平成15年)6月20日」に在留特別許可した事案にうちて、「在留特別許可が認められた理由」と、「元中国残留孤児の再婚した配偶者の子の家族について、在留特別許可が認められる場合と認められない場合の基準を明らかにされたい」旨申立てている。

2、しかしながら、これまで被控訴人が繰り返し主張してきたとおり(原審答弁書30ページ以下、被告第2準備書面2ページ以下等参照)、そもそも在留特別許可は、退去強制事由に該当することが明らかで、当然に本邦から退去強制されるべき者に対し、特に在留を認める処分であって、その性質は恩恵的なものである。そして、在留特別許可を与えるか否かの判断をするにあたっては、出入国の公正な管理という法の目的を達成するため、単に当該外国人の個人的事情(家族事情等を含む)のみならず、その時々の国内の政治・経済・社会等の諸事情、外国政策、当該外国人の本国との外国関係等の諸般の事情を多角的な見地から総合的に考慮すべきものであって、その許否は、法務大臣又は法務大臣から権限を委任された地方入国管理局長(法69条2)のいわゆる自由裁量、すなわち極めて広範な最良に委ねられているものと解すべきであり、このことは原判決が正当に判示し(原判決39ページ)、判例上も確立しているところである。しかも、在留特別許可の拒否にあたっえ考慮すべき諸事情には、当該外国人の個別的事情はもとよりその時々の国内事情、国際事情等、個々に異なるものが含まれ、これらの事情が複雑かつ、有機的に相互に関連しているのであって、在留特別許可の許否に関する固定的、一義的な基準は存在しない。

また、仮に法務大臣等が従前の許可事例などからその裁量権を行使する準則のような判断基準を設けることがあるとしても、それは行政庁内部の事務処理において、処分の妥当性を確保する基準として定められたにすぎず、その基準に違背しても原則として当不当の問題を生じるに止まり、当然に違法となるものでない(乙 第110号 の1・36ないし37ページ)

3、このように在留特別許可を与えるか否かは、法務大臣等が広範な自由裁量に基づき各事案ごとにの諸事情を考慮して、個別的に判断するものであるから、その運用に関しては特定の事情のみに着目して機械的に結論を決定するという類型的処理を行っているわけではない。また、被控訴人が、特定の事案において考慮された個別の事情については、当該事案の当事者とはまったく無関係の控訴人らに対する処分の適法性が争われている本件訴訟で明らかにすることは、当該事案における当事者の個人情報ないしプライバシー保護の観点からも許されるものでない。

4、以上の理由から、控訴人らが、本件と全く別の事案を前提とした釈明を求める事項について、被控訴人は釈明をすることはできないし、その必要もない。


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