2009年改定出入国管理及び難民認定法の問題(その2)

「日本人配偶者等」の取消し事由の追加の問題点――

「日本人配偶者等」の在留資格の更新・変更・取消についての考察

201012月26日 

中島 眞一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

 

一、はじめに

2009年7月の改定入管難民認定法(以下、入管法という)の成立により、3年以内(2012年7月15日まで)の

政令で定める日から、日本人配偶者等の在留資格の取消し事由として、「配偶者の身分を有する者としての活動

継続して6月以上行わないで在留すること(当該活動を行わないで、在留していることにつき正当な理由がある

場合を除く)」(入管難民認定法第22条の4第1項))が新たに追加される。

また、外国人登録制度の廃止により、新たに設けられる在留管理制度においては、「家族滞在」「日本人配偶者等」

「永住者の配偶者等」の在留資格のうち配偶者に係わるものは、配偶者と離婚又は死別した場合、14日以内に

地方入国管理局への届出が義務付けられ、虚偽届出や届出義務違反には罰則(入管法第71条の3 3項 

 20万円以下の罰金に処する)が設けられる。

これら新たな規制は、日本人の配偶者等(「永住者」や「特別永住者」や「家族滞在」の配偶者も含む)のうち、

「偽装結婚」ではなく、真正な結婚として来日が認められ在留している外国人を対象としていることに特色がある。

そして、具体的には、日本人等との法律婚が継続中でも別居中の場合の外国人の在留資格の更新・変更、

在留期間中に日本人等の配偶者と離婚・死別した場合の外国人の在留資格の変更について、従来とどのように

変化していくのかが問題となる。施行前の現段階では、3年以内に定められる政令や運用基準がどのよう

なものか不明であるが、これら外国人配偶者の在留状況がより不安定化することは間違いない。以下、

改定入管法が施行された場合に生じる「日本人配偶者等」の在留資格の更新・変更・取消について考察する。

 

二、日本人配偶者等の在留資格の取消し

(1)行政法一般法理による取り消し

2004年在留資格取り消し制度創設以前は、「偽装結婚」等偽変造文書を提出して「日本人配偶者等」の在留資格

を取得していた事案には、行政法の一般法理(「講学上、瑕疵ある行政処分の取消しは、個別具体的な法律の根拠

がなくとも行政法の一般法理により可能である」)により上陸許可、在留資格の変更許可、在留期間の更新許可

の取消しが行われてきた。行政法一般法理による上陸許可等の取消しは、その効果が上陸時点から遡及し、

当該外国人を「不法上陸・不法残留」状態にして直ちに退去強制させるもので、当該外国人にとって何ら

法律上の根拠もなく、適正手続きも保障されず、在留期間すべてが「不法」とされ、退去強制されてしまう

というその権利侵害が重大であった。(法務省は、そのため謙抑的に行われていたと説明)

(2)在留資格の取消し制度の創設

2004年の入管法の改定で、在留資格取消し制度が創設された。

@「偽りその他不正の手段により」上陸許可等を受けていた場合、取消しの効果を遡及させず、予め当該外国人に

通知し、意見聴取する手続きを定め、任意出国の機会を付与する等の在留資格取消し制度が創設された。

(注:「偽変造旅券」を行使して上陸許可を受けた者は、「不法入国者」として退去強制されるので、在留資格

取り消しの対象とならない。)

Aこの制度創設のもう一つの目的は、「許可に係わる申請に虚偽はなかったが、その後の事情変化により、

日本での在留の必要性が認められなくなった者に対する在留期間中の在留資格の打ち切り」を可能と

することであった。例えば、学校から除籍された留学生が、正当な理由もなく、その後も学校へ入学せず

に3カ月以上在留を継続している場合等に在留資格を取り消すことができるようにするなどである。

しかし、この改定では、日本で行うことのできる活動に応じて、入管法別表第一の上欄の在留資格を持って

在留する者に限られ、永住者や日本人配偶者等、日本における身分や地位に応じて、

入管法別表第二の上欄の在留資格を持って在留する外国人には、日本人社会とのつながりが

深いことやその活動の多様性を踏まえ、適用がなかった。

(三) 在留資格取消し事由の追加

2009年の入管法の改定は、これまで適用のなかった入管法別表第二の上欄の在留資格で在留する

外国人のうち配偶者に係わるものに在留資格取消し制度を新たに適用することにある。

これまで、その在留期間中であれば、法律婚が継続中で別居して暮らしている場合でも、在留期間満了

時まで、「日本人配偶者等」の在留資格を有する外国人はそのまま就労活動等が可能であった。

しかし、2009年の改定入管法が施行されると、法律婚継続中の外国人でも、DV事案等「正当な理由がある」場合

を除き、「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留している」場合には、

入管は、在留資格を取り消すことができるようになる。入管は、一般的に日本人配偶者と同居して暮らしていれば、

日本人配偶者としての活動をしているとみなしているので法律婚継続中に別居して暮らしている場合が問題となる。

むろん、「正当な理由がある」と認められる事由や「配偶者の身分を有する者としての活動」の内容がどのように

決まるのかで、その影響をうける範囲が変化するが、いずれにしろ法律婚継続中で別居して暮らしている

外国人配偶者の在し資格が不安定化する。

 

三 日本人配偶者等の在留資格の更新や変更

(1)      日本人配偶者等と別居中の場合

日本人配偶者等と別居中の場合、外国人親が日本人の子どもと同居して養育監護している場合には、

離婚前でも定住者の在留資格への変更が認められている。しかし、子どものいない場合には、DV被害者や

人身取引被害者等を除いて、日本人配偶者等との離婚調停や離婚訴訟係争中の場合でも、日本人配偶者等

の在留資格の更新基準が不明確で、更新がなされるか不安が伴っていた。

2009年入管法改定による配偶者に係わるものを対象に在留資格取り消し制度が施行されると、「正当な事由なく

6月以上に日本人配偶者としての活動を行っていない」と見なされれば、在留資格が取り消されることになる。

 

(2)日本人配偶者等と離婚又は死別した場合

離婚や死別の場合には、これまで、日本人配偶者等の在留期間満了時点までは、在留と就労活動等が可能であった。

また、離婚後の在留資格の変更については、日本人等の子どもがいて、その親権を外国人親が保有し、実際に

子どもを養育監護している倍には、定住者への変更が可能となっています。

しかし、子どものいない場合や子どもの親権を得られなかった場合

には、定住者の在留資格への変更基準が不明確で困難を伴います。

離婚後の「日本人配偶者等」の在留資格変更について、子どもがいない場合でも、実質的な婚姻期間が3年あれば、

生活の安定などそのほかの条件とあわせて 「定住者」への変更を許可するというおおまかな基準については、

2009年の入管法改定の議論の際の国会答弁のなかで法務省からも示されている。

2009年の改定入管法が施行されると、日本人配偶者等と離婚や死別した外国人の場合、入管への届出義務が

新たに設けられ、14日以内にその旨届けなければならなくなる。その旨届け出れば、入管は「日本人配偶者等」の

在留期間満了前に他の在留資格への変更申請を求め、該当する他の在留資格がない場合には、1カ月程度

の帰国準備期間を設けられる以外は帰国させられることになる。もし、届出なければ、刑事罰(20万円以下の

罰金に処する)が科せられることになることもありえる。

 

四、日本人配偶者等の在留資格が不安定化することでの影響

 

1、 日本人の配偶者等と対等な夫婦関係が築けず、外国人の配偶者が不利な状況下に置かれる。

 

2、  離婚調停や離婚訴訟係争中の外国籍の配偶者が、対等な関係で争うことができず、不利な状況におかれる。

 

3、 離婚訴訟で仮に勝訴して、司法判断として離婚が認められなくても、入管により日本人配偶者等の在留資格が取り消さたり

更新がみとめられず、日本でお在留ができなくなる事態も起こりえる。

戻る